第195話:ギブアップはない
「ツイてる奴には敵わない」
麻雀で負け越して卓を離れる者が残していく捨てゼリフとしては、ベスト3に入る多いフレーズである。
ツキや流れの正体なんて誰にも解らないものだし、デシタル派に言わせれば「麻雀にツキや流れなんてない」と断じられてしまうのだろう。
が、実際このルールで打ってみて、どちらかというとデジタル寄りというか、牌効率打法の和弥ですら思う。
(裏ドラも赤も槓ドラもないこのルールで打って、『5回打ったら3回は勝てる』奴だけがその台詞を言え)
一時的なツキが後の不運を招く遠因になることもあるし、小さなつまづきが大きな幸運の種であったりもする。
麻雀のような勝負事においてはもちろん、人生そのものにおいてもまた然りだ。
(オヤジ…。アンタのバカ息子は立派にアンタと同じ道をたどってるぜ…)
南1局。ドラは六筒。
麻雀の女神がどう転ぶか分からない。
和弥は4枚づつ牌を取っていく。
さすがに連戦連勝とはいかないようだが、麗美も恵も何か勝利の女神が隣にいるような勝ち方をする。勿論本人たちのチェック能力などもあるだろうが。
配牌に恵まれ、ツモ牌に恵まれれば、麻雀の心得があれば誰だってあっさり上がれる訳だが、しかしイカサマをしているワケでもないのに、難易度の高い面前混一色や全帯公、純チャンを和了れるのにはやはり実力以外の何かがあるとしか思えない。
5巡目。和弥が選んだのは北切り。
「ロン」
(何っ!?)
恵が手牌を倒す。
捨て牌を見ても、全く字牌待ちには見えない。どう見ても普通のタンピン系だ。
「ツモれば四暗刻だったけどね。出たなら和了っておくよ」
「はいよ」
恵に8,000点を渡す和弥である。
一方、立川南の控室は騒然となった。
「な、何あれっ!?」
「まだ5巡目じゃんっ!?」
由香と今日子が驚くのも無理はない。
とにかく恵と麗美の勝ち方は、多少腕に覚えのある打ち手ほど、そのモチベーションを根こそぎ奪われるような破壊力を持っていた。
「竜ヶ崎くん…」
小百合ももう和弥の名前を呼ぶのが精いっぱいだ。
南2局。恵の親。ドラは二筒。
勿論浮いているのは麗美と恵。
親も逃してしまい、下家はもう完全に心が折れたようだ。
(もう諦めたのか…。だから凡人はダメなんだ。ほんの少しでも対戦相手にプレッシャーをかけ続ける。じゃないとこいつらみたいなのを相手に戦い抜くのは無理なんだよ)
6巡目。
「リーチッ!!」
投げつけるような和弥の点棒は、ピッタリと点棒置きに収まった。
(凄いね…。まだ目が死んでない)
(今まであンたらと戦った奴は、皆さっきので心が折れたんだろう。けどな……俺は諦めが異様に悪いんだ)
ましてや南4局は和弥の親なのだ。諦める必要なんてない───
9巡目。カタリ、とツモった牌を置く和弥。
「メンタンピン・ツモ・ドラドラ。3,000・6,000」
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