第194話:悪循環
東3局一本場。
「ポン」
すかさず中を一鳴きする和弥。次の巡目。
「ツモ。500・1,000は600・1,100」
「なんだ。威勢よく来ると思ったら。トレマの時から何も変わってないね」
「変える理由なんてないからな」
表情も変えず、視線も合わせず。淡々と牌を収納口に落としていく和弥に、麗美も苦笑いを浮かべる。
(……本当にマシーンみたいな子だね。でもでも、挑発は無駄って分かるけど。ついついしたくなちゃう)
いよいよ東4局。和弥の親である。
(そういえばこの台は平和工業のH448型だったな。あまりかき混ぜが良くないな)
(考えるまでもなく混一色だこれは)
ドラの南の対子を上手い活かして、ホンイツでいいだろう。先ほどの8,000オールへの逆襲をしたいが、生半可に狙うのも良くない。
しかしこの形ではいざとなったら副露してでも和了る手である。
和弥は北を手の内に納め、五萬を切り出した。ホンイツ一直線ならば、他家が動きづらい序盤の内にキー牌を切り離すべきだとも判断したからだ。
次巡に、早速ドラの南が重なってくれた。続いて切り出すのは七萬。
(この面子で下らん小細工は通じない。いざとなったら字牌単騎もアリだ)
2巡のツモ切りを挟み、6巡目に八筒を引いてきた。
親満なら上等───とは言ったものの、手を短くすれば必然防御力は下がるし、ここまできたら面前で対々和・三暗刻にまで仕上げたい。願わくは四暗刻という気持ちは、やはり強かった。
今一度、和弥は全員の捨て牌を確認する。
(全員手は早そうだな)
だが、ここまで来たら逃げる訳にはいかない。打・白。
10巡目。四筒をツモり、ついに四暗刻を聴牌。
立川南控室でも、全員がモニターを見ながら騒然となっている。
「ロンでも三倍満、36,000だよ!」
「でもツモってほしい!!」
興奮した様子の今日子と由香。
そんな控室の喧騒など知らず、和弥は五筒をそっと河に置いた。
「ロン」
恵が手牌を倒した。
手替わりのしようのない、普通のタンピンである。
「2,000」
「……ほれ」
2,000点を無造作に置く和弥。
「君! ちゃんと“はい”を言いなさい!!」
1回戦から和弥の態度に顔をしかめていた係員の、怒声がついに飛ぶ。
(うるせえおっさんだ。なんで人から和了った奴に『はい』なんて言わなくちゃいけねぇんだよ。スポーツマンシップに反するってんならそもそもダマテンを禁止しろっての)
小百合の頼みじゃなかったら、正直この場にはいない。
しかし小百合の顔を潰すわけにはいかないのだ。
「ドーモスイマセン」
和弥は形だけの謝罪をし、牌を落としていく。
一方控室では一気に沈んだ空気が充満していた───
「四暗刻テンパったところで打ち込み……」
「さすが恵ちゃん。2,000とはいえキッツイねこれは…」
紗枝と綾乃は呆然とし、最早小百合は声が出なかった。
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