第189話:近くて遠いゴール
「来たわね」
「そりゃあ麻雀打ちにきてるんだ。時間ですって言われたらくるだろう」
目線も合わせようとしない和弥だが、逆に麗美と恵はニンマリとするばかりだ。
「相変わらず太々(ふてぶて)しくて結構結構。じゃあ始めましょうか」
「はいはい。よろしくお願いします」
と返す和弥だったが───
「そうだ。竜ヶ崎くん、東堂先生の事なんだけど」
麗美の口から出たのは意外な言葉だった。
「あの人ね、麻雀牌を握ると人が変わるのよ」
「……そうか? 一度打ったけどいつも通りだったぜ? 強いのは認めるがな」
興味ないとばかりに水を飲む和弥。
「あなた……東堂先生に勝ったらしいじゃない」
「嘘だよそりゃ。思いっきり負けたぜ?」
和弥はその時の事を思い出していた。確かにあの時───
(先生はマジで強かった。あれだけ強いって思ったのは秀夫さん以来だ)
「だから気をつけなさい? あの人は“鬼”よ。“無敵の龍”の異名は伊達じゃないわ」
麗美がそこまで話した時だった。
「君達、そろそろ時間だ。私語は慎むように」
係員から牽制が入る。
「……だってさ。そろそろ始めようぜ?」
「そうね。余計なお世話だったわ」
こうして、いよいよ個人戦完全競技ルール決勝戦・4回戦目が始まるのであった。
東1局。今度は恵の起家でスタート。ドラは三筒。
6巡目。
「リーチ!!」
いきなりの恵の親リーである。
一旦全員の河を確認してから、まあまあ気合いが入っていたのは肩を指先で分かった。決して安い手ではないだろう。
(さて…捨て牌はオール手出しの公九牌、リーチ宣言牌が五萬だった意味だ…。萬子は上下で分断されてるな…本命は一・四萬、六・九萬のどっちかだが…)
和弥は六萬に手をかける。
(ド裏スジだが…三・六萬は通るっ!!)
「ド裏スジじゃん」
ニヤニヤと笑う麗美。
「通るんだろ?」
親リーから2巡後。今度は和弥には聴牌が入る。
(絶好のドラ引きで張った…。メンタンピン・ドラ1でいつもなら即リーだが、なんだかイヤな予感がする……。三色への手替わりもあるし、ここは現物の五萬狙いでダマだな)
四萬を切ってダマテンに取り、恵の現物待ちに取る。自力決着を目指しつつ無理はしないという思考になる場面だ。
9巡目。ツモって来たのは七萬。
(やれやれ…。これを掴んじまったか。全く間違いなく打ってりゃ、この形で和了れていたのにな)
「…珍しいね。君が考えるなんて」
「大した秒数じゃないだろ」
これは和弥には屈辱的な指摘であったが、マナー違反というまでのレベルではない。そもそも、問題はそちらではない。
(麻雀あるあるだ。これがアタリ牌っぽい気がするぜ。勝負してもいいが、この女を気分良くさせる必要はないっ!!)
ここはニ索を落としていく。下家には和弥の捨て牌の根拠が分からず、狼狽するばかりだ。
(止まって考える所じゃないわ。多分危険牌を掴んだわね)
和了れないな───こう考えた恵の予想通り、この場は流局となる。
「聴牌」
「ノーテン」
「聴牌」
「ノーテン」
(親の連荘で一本場…花澤さんはさすがに無理しないわね。それにしても息子さん…。やっぱりそう簡単には刺させてくれないね)
恵の一本場である。
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