第188話:好きという気持ち
「それでは、10分間の休憩です!!」
立ち上がった途端、バキ、バキと体がなる。櫛を取り出し髪を整えて控室に向かう。
「すまん、どいてくれ」
由香と今日子が座っていたソファーの上に、倒れ込むようにドカ、寝転がりながらフー、と大きく息を吐く和弥。
勿論由香も今日子も何も言わない。
2人とも和弥を刺激しないよう、忍び足になってパイプ椅子に移り、逆に小百合は和弥が横たわってるいるソファーの元へと向かった。
「……大丈夫?竜ヶ崎くん?」
「大丈夫だ。別に大怪我した訳じゃない」
そうは言っても花澤麗美と発岡恵。この2人を同時に相手にし、しかもトップを取るのは並大抵な事ではない。
少々の麻雀の心得があれば、和弥がいかに薄氷を踏むような勝負をしているかが分かる。
脳みそのカロリーの消費も、並大抵ではないだろう。
「……あと2試合ね」
「だな」
残り2回戦の内、どちらかでトップを取れば和弥の個人戦優勝が決定する。
(一番最初に彼に話しかけたのも、麻雀を見せてもらったのも私。処女捧げたのも私。あとはお母さんに紹介するだけ───)
母・双葉には「婚礼を前提に付き合っている」とハッキリ言うつもりだ。断られない自信もある。
小百合は椅子を持ってきて、ソファーの隣に腰かけた。
「ねぇ、竜ヶ崎くん」
「あん?」
照明の光を遮るつもりか、目の上に腕を置いているので和弥の視線は分からない。
「私ね。残り2試合、どんな結果になっても竜ヶ崎くんを応援している」
ダラリと伸びた和弥の手を握りしめようとしたその時だった。
「おっとさゆりん!抜け駆けはいけないなあっ!!」
空気も読まず乱入してきたのは由香である。
「むー!あたしは今日祝賀会の幹事をします!!」
そう言って和弥の腕にしがみつく。
「ちょっと、南野さん!?」
折角のムードに水を差され、ふくれっ面になる小百合。
「おいおい、2人とも……」
そんな3人のやり取りに呆れる今日子、ふくれっ面の紗枝。龍子からは苦笑いが出るのだった。
「委員長……南野……その……」
しかしその後が和弥からなかなか言葉が出てこない。そんな様子を察してか、小百合の方から切り出した。
「いいの竜ヶ崎くん」
(え……?)
意外にもあっさりとした答えだった。しかも、笑顔である。
「私、信じてる」
「何をだ?」
「貴方が最強の雀士だって事を」
ようやく笑顔を見せた和弥である。
「……俺を負かした東堂先生がそこにいるのにか」
「ええ。それでも貴方が最強」
小百合も笑顔で返す。
「そうか……ならいいさ」
和弥はそう言うと、再び腕を目の上に置いた。
「泣いても笑ってもあと2回戦。やるだけだ」
そんな2人の様子を龍子はニヤニヤしながら見ているが、由香は複雑な表情だ。
(竜ヶ崎くん……)
『完全競技ルール個人戦決勝・第4回戦目を行います。出場選手は受付までお願いします』
控室にアナウンスが鳴り響いた。
「お呼びだとさ。行ってくる」
再び立ち上がる和弥だった。
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