第186話:一撃
東3局。いよいよ問題の麗美の親番だ。
まだ点数差が開いた訳ではないので和弥には精神的にも余裕はある。
(とはいえこの女に連荘させてはいけないな。気を緩めずに突き放したいところだ…)
何より、麗美にも恵にもまだ未知数の要素が残されている。次こそ、なにか仕掛けてくるかもしれない。
牌をとる麗美。やはり速い───半素人のイカサマなら見抜ける自信のある和弥だが、それでも麗美の一切無駄のない手さばきには内心感心すら覚えていた。
(まあ、仮にもこんな大会でおかしな真似をするとは思えない。だがそろそろ勝負をかけてきてもいい頃だが)
全員が配牌を取り終え、東3局が開始された。
(もう文句無しに萬子の混一色狙いだ)。
役牌の新たな重なりやドラの使い方次第では、ハネ満まで育ってくれる。当然和弥は打・九筒でスタート。
8巡目。3枚目のドラを引く。
肝心の中だけが一向に出てこないまま、面前混一色の一向聴となった。
東は2枚切れだが、安全牌として持っている状態だ。
(もしニ・五・八萬のどれかが入ったら中を雀頭にして勝負にいくぜ)
しかし───
「ポン」
恵が動いた。
「チー」
さらに下家からの筒子の連続仕掛け。
だが、捨て牌を見るに染めてはいなさそうだ。おそらくタンヤオのみといったところか。
(やれやれ。俺の手がいいのを察して仕掛けてきたか。ウカウカしてられないな……)
こっちも高い打点、ハネ満確定の一向聴ではあるが、恵は二メンツ晒し。既に聴牌である可能性が高い。
(久我崎というよりは、間違いなく俺への牽制か陵南渕は)
和弥はこういうときに決まって湧き上がってくる嫌な感覚を必死に振り払いながら、ツモに手を伸ばした。───四筒。引いた瞬間、嫌な予感がする。
(これが当たりだ。間違いなく)
和弥はしばらく葛藤に苦しむ。
(安手だろうが、この女の注文通りに打ち込むのもシャクだな)
止むを得ず、東切りをチョイスする。
「ロン」
(…!?)
その声は間違いなく、麗美のモノであった。
ゆっくりと手牌を倒す麗美。
「4,800」
(チ…)
「出るならキミからだと思ったよ。ホンイツでしょ? アンパイとして抱えてたんでしょ?」
「…はいよ」
麗美を無視し、5,000点を渡す和弥。
「はい。お釣りの200」
和弥は何も言わずに200点を受け取る。
(俺とした事がとんだ失態だぜ。あの捨て牌なら七対子も考慮すべきだったはずなのに)
軽いジャブだが、麗美のクリーンヒットが入った状態だ。
東4局。いよいよ和弥の親である。ドラは七萬。
(……こっちも一直線だな)
いきなり五索からの切り出し。
一瞬にして麗美と恵の周りの空気が、変わったのが分かった。
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