第184話:一進一退
10巡目。和弥は八萬をツモり聴牌。
(よし…。三色は消えたが、これなら十分だっ!!)
すかさず点棒入れを開け、千点棒を取り出す。
「リーチ」
七筒を横に曲げる和弥。投げつけるような千点棒は、まるで計ったように中央の点棒置きに収まった。
「ポンッ!!」
その和弥のリーチ宣言牌・七筒を、すかさず恵がポン。
このルールでは一発消しに意味などないが、それでも鳴いてくるのは単純なツモずらし目的ではない。『和了りにきてる』この一転しかない。
(陵南渕の部長さん、オリる気はさらさらないって事か。上等)
そして彼女が切ったドラの三索を、今度は麗美がチー。
(…もうめくり合いだな)
どうやら恵だけでなく麗美も、オリる気はさらさらないようだ。
(捨て牌からして発岡恵は筒子の混一色…。花澤麗美は全帯公含みの123の三色、か…)
『麻雀は強いヤツが強いヤツに勝つだけじゃない。4人の中で一番弱いヤツから点棒を毟ったヤツが勝つゲームでもあるんだ』
以前秀夫に言われたセオリーである。
考えてみれば確かに秀夫の言う事は単純明快かつ的確だ。要は、弱いヤツを狙い撃ちすればいいのだから。
しかし、である。“ではそれを毎回出来るのか?”といったら、並の打ち手ではまず不可能である。弱いヤツの他家の手牌を正確に読み切り、直撃する───
口でいうのは簡単だが、毎回出来る事ではない。
ましてや下家はともかく、麗美も恵も相当な実力者だ。やはり直接叩くのが一番である。
(嬉しいね…。団体戦の決勝とは違ってトップギアって事か。そう来なくっちゃな)
和弥は、己の精神状態に自重気味に笑うのだった。
14巡目。
「ツモ」
(………チ)
和了ったのは恵だった。パタリと手牌を倒す。
「2,000・4,000」
(それツモるのか。つーか四筒切ってたら和了りは阻止できたか…)
しかし愚形だろうがなんだろうが、和弥が和了れなかったという事実に変わりはない。リー棒含めて、3,000点の放出である。何より、終わってしまったものを悔いても仕方ない。
(まさかと思うけど、団体戦と同じってワケにはいかないよ?)
牌を収納口に落としながら、眼鏡の位置を直す恵。
そしてその恵の挑発的な微笑みを確認する麗美。
(ナメんな。もう1回戦のような訳にはいかないぜ?)
東2局。次はその恵の親番である。
「ふふ……。まさかこれで及び腰なったりないわよね?」
競り出してきた牌山から牌をとっていく恵。
「及び腰? ナメんな。満貫一回和了ったくらいでもう浮かれてるのか?」
「お、いいねぇっ!! 日和ってる君は見たくはないし安心したよ」
麗美もまた点数表記のパネルをじっと見つめ、不適な笑みを浮かべていた。
恵がカチリ、と王牌のドラをめくる。ドラは八筒である。
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