第183話:五分の取り組み
※第10話と登場人物紹介・2に出てくる龍子先生の顔と髪型、より私好みにしました。
「では、10分間の休憩ですっ!!」
係員の声が鳴り響く。
フー、と息を吐いた和弥はゆっくりと立川南控室に戻った。
これで五分になっただけ。有利になったワケでもないが、とりあえず仕切り直しにはなる。
椅子に座り込んだところに、由香と紗枝が早速寄ってきた。
「凄いわね……最下位回避どころか、下家を使ってトップとはね」
「向こうは実質コンビ打ちも一緒なんだ。血迷ったワケじゃない。勝つためにどうするか? って思っただけだ」
由香もこれには驚嘆したようだ。
「私ならあのレベルの2人に締め付けられたら、何も出来ないかも…」
「まあな。裏ドラも赤も無いから一発逆転も望めんし。けどな、中野…」
「はい?」
キョトン、とする紗枝。
「ボクサーに勝ちたいのにボクシングのルールに合わせる必要はないんだ。柔道家に勝ちたいのに柔道のルールに合わせる必要なんかないんだ」
何となく、和弥の言いたい事は分かった龍子である。
(逆境でも決してあきらめない。猛禽類の子は猛禽類、か…」
『完全競技ルール・3回戦目を行います。出場選手は受付までお願いします』
和弥がガムを噛み終えたところで、丁度3回戦開始のアナウンスが控室に鳴り響いた。
「んじゃ、行ってくる」
ゆっくりと控室から出ていく和弥。
(強がってはみたものの、あの女共が強い事に変わりはない)
会場に和弥が姿を現すと、一斉にカメラマンのフラッシュが煌めく。
(やれやれ。スター気取りをするつもりはないんだがな)
しかしこれが、和弥ののちの生活を大きく変化させるとは、その時は知る由もなかった───
◇◇◇◇◇
麗美、恵、そして下家の3人はもう卓の前に座っていた。
「……やる気満々だな」
「そりゃ、ね。君とこのルールで打つ為に頑張ったんだから。団体戦なんて個人戦に出るための方便だよ」
もう一人の恵も和弥を一瞥して微笑を浮かべただけであり、また、和弥もそれに対して軽く頭を下げただけなので、言葉を交わすようなことはしなかった。
「場所はこのままでいいのかよ?」
「私はこのままでもいいけど。恵は?」
「私もこのままでいいわよ。下家さんはどう?」
早速揺さぶりにかかる麗美と恵。ここで席替えを申し出るのは弱みを見せるのと一緒だ。下家はチラリと視線を上げた。
「このままで構いませんが」
と返した。
「じゃあお喋りタイムはもういいだろ。さっさと始めようぜ」
2回戦目で最下位に麗美が、中央の赤いサイコロスイッチを押す。
「そ、それでは完全競技ルール・3回戦目を始めますっ!!」
東1局、親は下家。ラス親は和弥である。ドラは三索。
配牌は先ほどにくらべたら上向いたようだ。メンタンピン・三色まで見えている配牌だ。卓の下でギュッと拳を握りしめる和弥である。
(多少は上向いてきたか…。ここは手なりで、公九牌整理をしてれば聴牌になりそうだな)
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