第182話:楽には勝たせない
1回戦目の麗美と恵の圧倒的に思えた優位勢は、和弥の連荘によっていとも簡単に失われた。
(……これは不味いわね)
今和弥が和了ったのはリーチ・ツモ以外に役のない1,000オール。しかし手なりであんな早い手が仕上がるという事。
さらに厄介なのが、麗美と恵の持ち点がこれで15,000点になったことだ。それは十分承知しているだろう。
(さて。今度は俺が見させてもらうぜ。逆境の中でどれだけ打てるのかをな)
これで麗美と恵の和了り合戦とはいかなくなった。一方和弥は何を和了ってもいい状態なのだ。
しかしそれでも、和弥も念入りにトドメを刺す機会をうかがっていた。
麗美か恵に直撃出来たら、間違いなく致命打を与える事が出来るからだ。とにかく最速で聴牌を目指し、麗美よりも恵よりも早く和了らなければ。
東1局・二本場。ドラは九筒。
面子候補は確保できているが、愚形ばかり。理想とは程遠い配牌だった。白をポンしたいが、雀頭候補が無くなってしまう。
(ここはドラ入り789の三色か…)
まずは二筒から切り出す和弥。麗美の切る牌が上手く噛み合ってくれさえすれば、早鳴きを駆使して早い聴牌を組めるかもしれない。
問題は麗美と恵の手の速さである。1回戦の要領で来られると、相当にきついものとなるが。
(あまり配牌は良くないみたいね…)
思わず安堵の溜め息と同時に、麗美の内心に新たな闘志の炎が灯る。
彼女はすっかり自分が、和弥の周囲すらも巻き込む異様な麻雀に毒されていることに気付いた。
(相手のリーチを恐れる麻雀など、私の…この花澤麗美の麻雀じゃないっ!!)
麗美の手牌も対子でボコボコ、お世辞にもあまりいいとは言えない。でも最初から形は見えていた。
(麻雀は押さば押せ、引かば引け。そうよね新一さん?)
───また和弥のリーチ攻めが来たら?
そんな事を気にして麻雀なんて打てない。何せ5回戦の勝負なのだ。
7巡目。
麗美の手牌。七対子とピンフ・一盃口の両天秤だったが、一番の急所をツモり聴牌。
(来たわね…これでドラも使える!!)
「リーチッ!!」
五筒を横に曲げリーチ棒を置いた瞬間、『リーチデスッ!!』という女性の電子音声が鳴り響く。
(なるほど。さすがにそう簡単には勝たせてくれないな)
しかし和弥もすかさず点棒入れを開いた。
「俺も張ったよ…リーチ」
またしても凍りついた、異様な空気に包まれる決勝卓。
12巡目。
「ツモ」
パタリと手牌を開けたのは和弥だった。
リーヅモ・三色・白・ドラ1である。
「6,100オール」
結局、このままスコアは動かず。2回戦目は和弥のトップに終わった。
(悔しいなあ…あんなペンチャンをツモられちゃうんだ)
麗美はため息しか出なかった。
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