第179話:ライン破壊
襟のボタンを一つ外す。
「あくまで私は麻雀のルールに則っているだけ。麻雀は1対1の勝負じゃない。自分以外の3人は敵よ?確実に勝ちを拾いにいけばいいだけじゃない。そうでしょ?」
「この前の決勝とはまるで別人だな。でもまあ正直……」
サイコロボックスのスイッチを押して遊ぶ和弥。
「……そういう態度を取ってくれた方がありがたいんだよ。遠慮なく潰せるからな」
最後のセリフは、自分に言い聞かせるつもりで口にした。
そうなのだ。ボランティア感覚で始めた麻雀部だが、やっぱり“強い奴と戦いたい”という本音があるのは間違いない事実だ。相手にガミガミいうなど和弥のプライドが許さなかった。
「やる気になってくれたようで安心したよ」
そこに恵や先ほど飛ばされた下家も戻って来た。
『それでは個人戦・完全競技ルール2回戦目を始めます』
場内アナウンスが鳴り響く。
「席替えはどうすんだ下家さん? このままでいいのか?」
和弥が尋ねると、下家はおもむろに手を伸ばしてサイコロを振った。どうやら席はこのままでいいらしい。
サイコロボックスの中で出た出た目は2と4。
「恵が起家よ」
「言われなくても分かってるってば」
(…こいつらは通しとか使わなくても、実質組んでるのと一緒だ。このルールじゃデカい手を和了ったらまず逆転出来ない。だったら2位を狙えばいい)
和弥は理牌をしながら、この麻雀の決勝の勝利条件についてを改めて考えた。
麗美か恵のどちらがデカい手を和了ったらどちらかが2位狙い。実に単純だが効果的な作戦だ。しかもコンビ打ちではないので、余計に始末が悪い。
しかし、ならば取るべき打ち方は───と少々頭を悩ませることになるが、和弥はそうではない。
(だったら“トップを取らせない打ち方”をすればいい)
東1局。ドラは發。
悲観すべきものでもないが、789の三色と全帯公か、七対子か、の配牌だ。一枚だけでは重荷であるドラの存在が厄介である。重なってくれれば問題はないのだが。
恵が第一打から随分特徴的な切り出し。何と打・六索から始めである。
和弥の第一ツモとなったのは七筒。
(ひとまずは余計なことは考えず、手なりで打てばいいか…)
途中で麗美・恵・下家に動きがあれば、随時対応していけばよい。和弥は一索から切りにかかった。
一旦下家が一索を確認した。一索を鳴く手順など123の両面順子かポンしかない。こうなると。こうなるとチャンタ、混一色、対々和のどれかしかない。
(……)
次のツモは七萬。ここで和弥は打・發。
「ポ、ポンッ!!」
これで下家は満貫確定である。
(どうせホンイツにしかならない手だ。鳴いてハネ満ならポンだ)
手の先に力が入る下家である。
先ほどの一索を見ているのに平然とドラの役牌切り───勝負所ではまっすぐに打ち続ける和弥とはいえ、これには立川南の控室も騒然となった。
「竜ヶ崎先輩ってもっと理詰めで打つ印象ありましたけど…」
「そうよね。竜ヶ崎のヤツ、見かけはイケイケだけどなんかマシーンと打ってるような感じだったのに…」
紗枝と今日子も、信じられないと言った表情である。
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