第175話:決勝前夜
「着いたぜ……」
和弥が住むマンションの前。小百合はキャップ型ヘルメットを脱ぐ。
「これからはいつでも、遊びに来れるわね」
小百合の言葉に、和弥も最初は困惑したものの、ここまで懐かれれば悪い気はしないものだ。そして───
「ねぇ竜ヶ崎くん。今度私の家にも来ない? お母さんにも紹介したいの!」
目を輝かせて訴えてくる小百合に、和弥はさすがに和弥は困惑した。
立川南の男子達がこの光景を見たら、一斉に殺意の目を向けられていただろう。
「いや、それはさすがにマズイだろっ!?」
「どうして?」
小百合は、和弥が拒否する意味が分からなかった。
結局少々微妙な空気となり、小百合には夕食を作ってもらったが、今日は泊まらせず駅まで送った。
そして───
「おい竜ヶ崎!!」
自宅に戻ると、待ち構えていたのは龍子だ。
「どうしたんです先生? 人のマンションの前で。ストーカーじゃあるまいし」
「西浦と不純異性交遊をしてないか確認にきたんだが?」
「な、何だよ急に……」
いきなり強い口調の龍子に、たじろぐ和弥。
「……すまない。私とした事がついイライラしてしまったな…」
そう言うと龍子は、和弥に背中を向け去って行ったのだ。
(何だったんだ……?)
この時ばかりは、和弥も龍子の真意を知るよしもなかったのである。
◇◇◇◇◇
そして翌日───
和弥はゆっくりと目が覚めた。いよいよ明日は個人戦・完全競技ルールの決勝だ。
さて今日はどうしようか。
小百合が泊まりに来たので、冷蔵庫の食材は心許ない。なので買い物に行ってから雀荘・紅帝楼へ向かおうかと思う和弥だったが───
「よう竜ヶ崎」
下に降りて駐輪場に立っていたのは、龍子だった。
流石に和弥もギョッとする。
「おはようございます先生」
「おはよう竜ヶ崎。……何か私に言いたい事はないか?」
挨拶もそこそこに、いきなり本題に入る龍子。
「いや別に……」
と言葉を濁す和弥だが、龍子は続ける。
「西浦とはどこまで進んだ?」
「は!?」
龍子の言葉に、和弥は思わず素っ頓狂な声を上げた。
「───委員長とは何もありません」
「“何も”、だと?」
和弥の言葉に龍子の表情が変わる。
「ああ……そうだよ。先生が気にする事はない」
そう答えるのが精一杯だった。そして───
「そうか。ならいいがな……」
それ以上は何も言わず、龍子は去って行ったのである。
(何なんだよ一体……)
そんな龍子の背中を見ながら、和弥は呟いたのだった。
◇◇◇◇◇
そしてついに翌日───個人戦・完全競技決勝当日。会場には各校の麻雀部部員達が集結している。
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