第174話:切り替え
喜々として表彰式に出る小百合、由香、今日子、紗枝。
恐らくこの4人にもバレないよう、麗美も恵も相当巧妙に手を抜いたのだろう。
流石に表彰式では得意の作り笑いを浮かべてシャーレを掲げていた綾乃だが、彼女がフッと見せた真顔は明らかに麗美と恵に対する怒りだ。
(あの2人が『手を抜きました』とか余計な事さえ言わなきゃいい。勝ったのは俺達立川南、それでいいんだ)
勿論だが龍子も、この勝利を完全に怪しんでいる。根拠は勘だけではないのだろう。
それにしても一体何故、彼女達は手を抜いたのか。「彼に脅されたんです!」などと騒ぎたてる為、とも思えない。
そんな事を考えながら表彰式を終えると、またもマスコミが和弥に殺到する。
「すいません、他の部員と優勝を喜びを分かち合いたいので」
追いすがるマスコミを後目に、さっさと控室に戻る和弥。
小百合に頼まれこの部に入りトレマでも強烈な強さを見せた麗美。その麗美と互角の恵。内心は期待していただけにガッカリだった。が、
(今回の目的は“いい勝負をする”事じゃない。“何がなんでも団体戦優勝”だ。これでいい)
控室では珍しく小百合までもが感情を爆発させている。
「いやー完敗です。彼は強かったですよ! まだまだ修行が足りません。ではこれで!!」
会場では残った麗美が白々しい賛美で和弥を持ち上げる麗美。勿論久我崎の他のメンバーは残念そうだが、そんな事はお構いなしだった。
◇◇◇◇◇
「どうしたの竜ヶ崎くん?」
「えーと……なんだ。まあ優勝出来て良かったな、って」
「そうね。でも、もっと上を目指せるわ私達!」
そう答える小百合の顔は、先ほどから非常に明るいものだった。
(こんな笑顔出来るのか委員長は…)
内心驚く和弥である。
「そうか…」
とはいえ、和弥の表情は相変わらず暗い。
(あれ? 私、何かおかしな事言ったかしら……)
そんな会話を交わしながら帰り道を急ぐ和弥と小百合の様子を、綾乃が複雑な表情で見送っていたのだった。
「なんか、ここまではしゃぐ委員長は初めて見るぜ。A組の連中が見たら驚くだろうよ」
和弥は小百合の豹変ぶりに驚いていた。
「さ、早く乗りな」
「ねえ竜ヶ崎くん」
「ん?」
まだシートには乗らない小百合。
「2人っきりの時は、“小百合”って呼んでくれないかしら?」
「……は? な……何を言ってんだ」
「ねえ! いいでしょ!?」
駄々をこねる子供のようにせがむ小百合。まるで、それが当たり前であるかのように。
「委員長は委員長だ。…まあ、2人っきりの時だけだぞ?」
少し強い口調で答える和弥だった。
小百合は一瞬残念そうな表情を浮かべるが、すぐに笑顔に戻った。そして───
「ありがとう」
そう答え、シートに跨るのだった。
「じゃあ出発するぜ?」
和弥はそう言うと、スロットルを全開にして会場を後にした。
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