第173話:本音を見せない女
「ゆ、優勝は西東京代表立川南高校ですっ!!」
宣言と同時に、会場内が大歓声に包まれる。
「おめでと。強かったよ」
立ち上がった麗美が和弥の元に来て、握手を求めて来た。
「……どーも」
目線を合わさず、軽く握手を返す和弥。
準優勝に終わった久我崎の麗美、3位に終わった陵南渕の恵も、クスクスと笑うのみだ。手を抜いたとしか思えない勝利に一言も二言も言いたい事があるが、しかしここは我慢した。
「竜ヶ崎くん!」
「和弥クン凄いっ!」
「やるじゃん竜ヶ崎アンタ!」
「竜ヶ崎先輩!」
立川南の部員たちが笑顔で駆け寄ってくる。どうやら小百合・由香・今日子・紗枝の4人には麗美と恵が手を抜いて打った事には気づいていないらしい。
ただ一人、綾乃を除いては。
「まさかこんな……冗談みたいな勝ち方で優勝とはね……。少し見損なったよ、ハナちゃん」
綾乃はソッと麗美に耳打ちする。
そう。綾乃には分かっていたのだ。麗美も恵も手を抜いて打っていたのを。
「あはは。綾乃にはバレてたか」
茶化すような笑いを浮かべる麗美だが、綾乃の表情はいつもの作り笑いではない。
やり取りをそっと見ていた和弥は確信した。
これが綾乃の本性なのだろう、と。
「あははじゃないって。どういうつもり?」
「別に。彼とはもっと熱い勝負をしてみたくなった。それだけだよ」
一見すると麗美が負けた事に都合のいい理由をまくしたててるようだが、違う。幼稚園の頃から麗美と付き合って来た綾乃には分かる。麗美の言葉に嘘がない事が。
「彼を場に誘うつもり?」
「私が誘わなくても、いずれ絶対にそうなるって。それより表彰式と優勝記念シャーレの授与だよ。部長としていかなくていいの?」
上手く濁された。しかしそれは確かに、麗美の考え方だ。
「私は味方なんかほしくない。私が欲しいのは敵」
常に麗美が口にしている台詞だ。
綾乃も凌ぐ闘争本能の固まり、バーサーカー気質のような麗美からすれば、当然ともいえる。戦い、勝利する事でしか得られない快感。
シャーレを授与しながら、クスクスと笑う麗美と恵を見て、綾乃も何か不思議な感情が湧き出るのであった。
(竜ヶ崎くんを自分の海域に引きづり込みたいの? 綾乃…?)
◇◇◇◇◇
「すいません、インタビューをっ!」
控室の前はマスコミでごった返している。
もう午後5時になり、龍子ですらいい加減イライラしているのが分かった。
「申し訳ありません、竜ヶ崎はそういうのは一切受けないと言っていますので…」
(手を抜いてないように見せかけて負ける、ね…)
和弥は舐めていたキャンディーをかみ砕く。
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