第172話:空虚な優勝
南1局。親は麗美。ドラは四索。
麗美の一打に和弥は驚く。のっけからそのドラの四索を捨てたのだ。
(やはりやる気がないのか?)
しかし何か意図を持っている以上、「やる気がないか?」などとは係員も文句を言えない。
「全帯公を狙っている」「七対子を狙っている」そう言われたら反論のしようがない。
ひょっとしたら彼女は次局に持ち越すのではなく、今のこの自分の親で大物手を和了って決めてしまおうという腹づもりなのだろうか。
だがそんな事は関係ない。
(やる気がないならそれでいい。あと少し、そのまま黙っててくれ)
良くない配牌なりに、和弥は懸命に打つ。
「ノーテン」
「聴牌」
「聴牌」
「聴牌」
麗美の一人ノーテンである。捨て牌にズラリと並ぶ中張牌。2回戦目の自分のように、国士でも狙っていたのだろうか。
これが大会じゃなかったら思わず「何を狙っていた?」と聞いたかも知れない。
(我慢しろ…。この女が何を狙っていようと、俺には関係ない)
南2局。
「ロン。2,000」
恵が流した。またもリーチもかけずダマテンである。まるで両者とも和弥をアシストしているかのような打牌だ。
(……浮き足立つな。残りの局数はあと2回、俺の優位はほぼ決定的だ)
まさか「この男に有利に打つよう脅されました!」などと騒ぎ立てる気か?───
いや、それはない。麗美の性格からも親友の綾乃を巻き込むような真似はしないだろう。そもそも彼女が花澤組の娘なのは和弥も聞かされている。
ここで騒ぎ立てても、自分の親がヤクザの組長なのを嗅ぎつけられても、1円の得にもならない筈だ。
南3局。ドラは六萬。いよいよ和弥の親。あと2局しのぎ切れば、立川南に初優勝をもたらす事が出来る。
麗美も恵も、ここで和弥を捲るとなるとハネ満直撃以上の条件が求められる。
和弥はここからオリに徹すれば、負けることはほぼない。もうリーチをかける必要がないのだ。
(……そうだな、暴露はない。野球のドラフトだってそうだ。本命1位だろうが外れ1位だろうが1位は1位だ)
この2人の思惑など関係ない。そう思って山から牌を取る。
しかし、である。
(……連荘出来ればいいのに。手が一色手傾向だな)
和弥の手牌はまさかの筒子の清一色模様。
(ドラは対子落としだ。その方が早い…)
いきなりのドラ連打。取材していた記者達はどよめく。
「ポン」
二筒を鳴いて聴牌。
追い詰められていた上家だが、勝負しない訳にはいかなかった。
「リーチ!」
上家が六筒を横に曲げて切った瞬間。
「ロン。18,000」
清一色・タンヤオに振り込んだ上家が飛び、この瞬間立川南高校の団体戦優勝が決定した。
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