第171話:譲ってもらった勝利・2
「ポン」
2巡目。和弥が早くも自風牌の西を鳴いた。
(あら? 早仕掛けとは珍しいわねこの子?)
勿論和弥が早々と一鳴きするのは、今回が初めてではない。現に部活では何でも見せている。
しかしどっしり構えて手を作る印象の強い麗美と恵には、少々新鮮に映った。
僅か2巡目。九筒を切る上家。
「ロン。2,000」
西・ドラ1である。
(これでいい。手を抜いてくれてるなら構わない。譲られた勝利だろうが、俺は和了り続けて勝つだけだ)
実際のところ、麗美と恵が本心で何を考えているのか分からない。
本当に明後日の個人戦決勝に向けて、ギアを落としているのかも知れない。
案の定、次巡のツモで麗美は和了った。
「ツモ。1,300・2,600」
ドラ対子の平和・ツモであった。
(…その手でリーチかけないのか。まあいいけど)
必死に自分に言い聞かせる和弥。
東3局。いよいよ和弥の親である。ドラが六筒。
ドラ2に赤1の配牌一向聴。
ダブ東を軸にした副露、もしくはダマテンという本線で進めれば可能性は近づいてくる。
まずは南から落とした。
残念ながら第一ツモでの聴牌とはならなかったが、引いてきたのは五筒という好牌であった。北を切り、引き続きとはいえ随分形がよくなった一向聴に取る。
3巡無駄ヅモが続いたところで、麗美から東が切り出された。和弥はすぐに飛びついた。
「ポン」
まだ6巡目、速さも打点も十分の聴牌である。
(他家から出ずとも、流局までにはツモれるだろう…)
───2巡後。ツモったのは七筒。
「ツモ。3,900オール」
これで点数的には、ひとまず安心できる。
しかし和弥は、先ほどからやけに静かなままである麗美に不気味な印象を抱いていた。
単に今日はツカない日なのか、それとも本人が言っているようにギアを上げないだけなのか───
いずれにせよ、このままなにもなしに終わらせるような打ち手ではないはずだが。
「ほ…」
麗美と恵に「本気出さないのか?」と言いかけて、和弥はやめた。自分は立川南高校麻雀部に、全国大会優勝をもたらすために入部したのだ。
和弥は支払われた点数を集めて点棒入れにしまい、一本場を開始させた。
しかし一本場は一転して、開けた瞬間に(なんだこりゃ…)と思ってしまう苦しい配牌であった。九種九牌で流すこともできなかったので、親番ではあるが配牌オリを決め込むつもりで序盤のうちから安牌集めに徹底した。
結果は、8巡目にリーチをかけた恵のツモ和了り。
「ツモ。2,100・4,000」
メンタンピン・ツモ・赤1の満貫であった。親被りにはなったが、配牌オリを決めた時点でそれは覚悟の上だ。むしろ親満を和了ったあとに4,100の支出で済んだので上々と考えるべきだろう。
しかし上家が3,900を和了り。
次の親番は麗美。
(このまま頼むわ…竜ヶ崎くん)
控室で必死に祈る小百合だった。
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