第170話:譲ってもらった勝利・1
「あんたがトンで終了だな」
和弥の聴牌形を見て、目を見開いたままの上家である。
「そ、それでは10分間の休憩です」
慌てる係員の声が響いたが、まだ怒りでギリギリと歯を食いしばる上家。
「そんなに怒るなよ。中張牌の枚数は84枚。それがほぼ見えてるんだ。公九牌を引く確率の方が全然高いだろ」
控室には戻らず、静かに肩を解す和弥。
(久我崎の部長が麻雀が強い、のは認める。だが…)
山に眠ってる牌まで読み、対戦相手の心理も突く麗美、恵。それがこの決勝はどうだ。
明らかに手を抜いてるとしか思えない。
「竜ヶ崎くん…」
声の主は小百合だった。後ろには綾乃もいる。
顔にはなるべく出さないようにしていたが、流石にイライラしているのが画面越しに分かったのだろう。
「…委員長か。それに先輩も。あと一試合残ってるんだぜ?」
「お、綾乃じゃん。エースが心配になった?」
茶化す麗美だが、綾乃はいつもの作り笑いを浮かべていない。
「ハナちゃん。それに恵ちゃんも。ちょっといい?」
誰が見ても綾乃の機嫌が良くないのは間違いない。
「あとにしてくれない? 対局前の貴重の休み時間なんだから」
対する麗美の表情も、一切の笑みはなかった。その顔はまさに“極道の娘”の顔である。
これには小百合だけではなく、流石の和弥すらも一瞬ギョッとした。
「今は話しかけないでくれ」という麗美の無言のメッセージが聞こえるようだ。
「…だそうだ先輩。委員長もここは大人しくしてた方がいいんじゃねぇのか」
和弥の一言に、小百合も綾乃も表情を強張らせながら控室に戻って行った。
「それでは、3回戦目を始めます!」
係員の声が響き、3回戦が始まる。
東1局。ドラは一筒。起家は今度は麗美。
「ねぇ。ギアは今何速?」
「さあね。友達でもなんでもないあンたに、そこまで教える義理はないな」
再び麗美が挑発してくるが、どこ吹く風と和弥は今まで通り軽打を繰り返す。
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