第168話:追いかけっこ
「それでは、10分間の休憩です」
係員の声と共に、ふー、と息を吐く和弥。
「あまり気張らない方がいいんじゃない? 血管切れるよ?」
3位に終わった事を悪びれる事もなく、麗美は手の平の汗を拭く。
「半荘3回戦に、気張るも気張らないもないだろ。そっちこそ…」
「私は明後日だって明後日。むしろ私はそっちが本番だし」
まるで団体戦は眼中にないとでも言いたげな麗美の態度だ。
そのやり取りを見て恵も、クスリと笑うのみである。
(随分余裕だな…。まあいい。勝つ気がないなら俺が勝つ。そんだけだ)
「それでは2回戦目を始めます。各校の大将は集合お願いします!」
係員の声が響く。
2回戦・東1局ドラは二筒。起家は和弥。
(全帯公か、混一色か…)
ドラ表示牌である一筒が都合のいい事に暗刻になっていた。和弥の迷いはここで無くなった。九索に手をかける。
(この手はホンイツになりたがっている…!)
この手に和了りがあるとすれば、もう筒子のホンイツしかない。
普段は入り目を広げていく和弥には珍しい決め打ちだった。
それが功をそうした訳ではないのだろうが───以降のツモは、有効牌がどんどん入ってくる。九筒、北、無駄ヅモを挟んで次巡に北が暗刻になって二向聴。
また2巡無駄ヅモが続くが、今度はダブ東が暗刻にになり一向聴に。
(一番の悩みどころだったダブ東が暗刻になった…)
こうなると当然、選択すべき捨て牌は中落としである。
捨て牌が露骨な為に染め手なのが丸分かりなので、全員筒子を絞っているのは明らかだ。
(ここまで来たら関係ねえ。鳴かせてくれないのなら俺が自分でツモる)
その和弥の気合が届いてくれたのか、次巡のツモ───は九筒だった。五筒を切り面前混一色の聴牌。迷いなく点棒入れを開ける和弥。
「リーチ」
ダマテンでも親満だが、どっちにしろこんな見え見えの捨て牌では出和了りなど期待出来ない。
(ドラならチャンタ・ドラで3翻。三筒なら三暗刻だ)
攻撃的な麗美も恵も、慎重に合わせ打ちしてくる。
(随分張り合いないな…)
どちらにしろツモれば親倍、8,000オール。ロンでも18,000の親ッパネは約束されている。
13巡目。そろそろ流局が見えてきたと思いきや───
「ツモ」
和弥はそっと牌を置く。
裏ドラは乗らなかったが、それでも同じだ。
「8,000オール」
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