第166話:せめてもの反撃
※年内最後の更新です。来月6日より再開します。
その後も小百合の手が進まないまま、局は進む。
ついに南3局(ラス前)、小百合の親番。
ドラは七萬。
(この親番で何とかしないと…)
前半よく動いていた筒井と陵南渕次鋒は、南場に入って以降すっかり大人しくなっている。もう自分達の役目は終わったと思い、完全に見に入っているのだろう。小百合はポイントが大きく無くなっている。ここで連荘を重ねられなければ、和弥にかかる負担は甚大ではない。
現状最下位目の小百合の持ち点は17,200。トップの筒井とは大きな開きがあるが、それを今更言っても始まらない。
つまり、ここでは連荘がマストという事。私はまだ到底安心できるような立場ではないということだ。ここまで来たら攻撃あるのみ。
配牌で東が配牌で暗刻の、ドラ入り面子の二向聴───この3回戦も好調そうな筒井を止めるのはここしかない。
(十分形だわ。ともかくこれなら、どこからでも仕掛けることができる)
悠長に安全牌を残しておく理由なんてない。
小百合は迷わず北を切る。
「ポン」
それを、下家が迷わず鳴いた。すかさず、筒井が鼻で笑う。
(落ち目のときに足掻くと沼に嵌るぜ)
(何笑ってんのこの出っ歯男。私の鳴きを一緒にしないで)
オタ風をポン。捨て牌からも索子の染め手狙いなのは小百合にも分かった。
(あらゆる可能性を考えろ。そしてあらゆる可能性を否定しろ)
一度和弥が紗枝に送っていたアドバイスだ。
卓に座るとマシーンのように冷酷になる和弥にしては随分とアバウトなアドバイスだ、と当時は思ったものだが。しかしこういう展開になる、その言葉の意味は良く分かる。
次巡。一索が重なった。
(ラッキーだわ。雀頭が出来てくれた)
すかさず四索を切る小百合。
「……ふーん」
下家の陵南渕の副将はなにかを察したらしく、それ以上はなにも言わず牌を倒した。
「チ―」
(不味いわね…手を進めさせたかしら?いえ、ここはスピード最優先。マイナスの状況で牌を絞る理由はないわ)
見え見えの混一色に対してキー牌を切る。しかしここはリスク管理の場面ではない。
麻雀の基本だ。鳴いた人より鳴かせた人───3巡目は全員ツモ切り。
2巡続いた無駄ツモの後、ついにきた八索。
(一手違いで三色は分かるけど…ここは勝負っ!!)
「リーチ」
勿論同順は全員一発を避けてきた。
しかし次の巡の小百合のツモ。いきなり生牌の南である。
厳しいところを持ってきてしまったが、しかしリーチした以上は切るしかない。
「……」
大丈夫だった。小百合は改めて捨て牌を確認する。
彼女に対して前巡までは、ホンイツと役牌後付けのどれかに当たる牌さえ切らなければ大丈夫だった。しかし、今は状況が違う。彼女はダブ南を素通りさせた。これによって三色と一通の可能性も出て来たのだ。
(考えてどうなるの。めくり合いでしょ、ここまで来たら)
ツモは赤五筒。勿体ないが、リーチをした以上和了り牌でないのなら切るしかない。
「ロン」
無情な声が木霊した。
「三色、赤。2,000」
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