第164話:泥沼
「うっそ…」
「止まらないじゃん、天上位さんとやら…」
筒井の今の倍満は、立川南の控室にも衝撃を与えた。
「満貫和了っても、倍満で和了られるなんて…」
これには筒井を「世界で尊敬する人ベスト5」に入れてる今日子も、流石に言葉がないようだった。
「だったらもう一回、満貫和了ればいい話だろ。それでチャラだ」
浮足立つ部員達を、和弥が一喝する。
東3局。いよいよ小百合の親。ドラは三筒。
これが小百合の配牌だった。ドラ対子に、ダブ東と白までもが対子。悪くない。
「おぉ! いいじゃんいいじゃん!」
思わず叫ぶ由香。
「ダブ東を鳴けるかだけど…全部使い切れば親満にはなりますね!」
一変して今度は湧き上がる、立川南麻雀部控室。
小百合はすっかり倍満の雰囲気に呑まれて小さくなってしまっていたが、そこでようやく、今日ここに座っている意味を思い出すことができた。
先ほどの勢いが残ってくれていれば、このパワーアップした筒井にも太刀打ちできるかもしれない。
(こうなったら私も退き下がりはしない…!)
小百合は強気に打とうと心に決めた。第一打に一萬を切る。
次は萬子のカンチャン落としと決めていた。面子オーバーな状態でカンチャンはいらない。
次のツモ───引き入れたのは何と、ダブ東であった。一番鳴きづらいと思っていただけに、願ってもない暗刻の完成である。
4巡目。小百合は打・七萬を選択。
「ポン」
発声は筒井のものだった。小百合は思わず、筒井の手元を二度見してしまった。いきなり七萬をポン。萬子の染め手には見えない。役牌の後付けだろうか?
(ふふ……さーて、この鳴き、どう考えてくれるのかなぁ?)
困惑している小百合の顔を面白がるように見つめながら、筒井は赤五萬を切った。
「……チー」
今度は筒井の下家が両面チー。赤とはいえ、流石に両面チーは早々すぎる気がした。そして、九筒切り。
「それもポンかな」
またしても、筒井である。小百合は即座に判断する。
(間違いないわ。ブラフ気味の対々和ね。ただ、役牌は見えてないから注意しないと)
8巡目。今度は白が出た。
「ポン!!」
これで親満確定だ。ニ・五索待ち。
流石にこれは出そうか、ツモれそうな空気はある。しかし11巡目───
「ロン。1,000」
和了ったのは、またしても筒井だった。
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