第161話:悪循環
「なんか混一色っぽかったんでね。役牌絞ってたらこの形になった」
ウキウキしているのを隠そうとしない筒井。
全くと言っていいほど和弥の相手にならなかった筒井にトバされるなど、小百合にとっては屈辱である。
「この状態は非常にマズイな。踏ん切りがつかずに中途半端な鳴きを選択をして、挙句放銃でトビ……」
モニターを覗きながら、顔をしかめる龍子。
「結果論でしょ。あの捨て牌なら筒子の下は捨てられない。俺だってあそこは中を切っていましたよ」
それは龍子に反論する和弥だけではない。ここにいる全員思っている事だ。しかし結果、最悪な展開を引き寄せるといったことになりがちだ。
“慎重”を飛び越したという過度な恐れは、勝負をする者にとって最大の敵である。
『勇気と無謀は違う。それと同じように、慎重と臆病は違うんだよ』
かつて和弥が、秀夫に言われた言葉であった。
「では10分間の休憩です」
大会係員の言葉もボーッと聞こえる。
(逃げた訳じゃない…。同じような状況は今までもあったわ…)
───そうは思っていながらも、小百合は動けなかった。
(あの白は鳴いたんじゃなく、思わず“鳴いてしまった”…)
拳を握りしめる小百合である。
最初から七対子と対々和の両天秤ではあったが、やはり決勝戦のプレッシャーなのか。
モヤモヤとした気分を引きづったまま、小百合は動けなかった。
「勝負しなきゃいけない場面だったんだから気にする事ねぇのに。必要以上に気にしすぎだな、委員長は…」
「そりゃさゆりんだって人間だよ?和弥クンみたいなコンピューターレベルで冷静なのが珍しいんだよ…」
控室から見ている和弥と由香にも、モニター越しの小百合の動揺は伝わってくる。
「それでは副将戦・2回戦目を始めます。各校の副将は集合して下さい」
係員が2回戦目開始を告げた。
1回戦ダントツトップに終わった筒井は、余裕シャクシャクである。
「どうだい?パワーアップしただろ俺は?」
「───話しかけないで下さい。貴方と話してると無駄に疲れます」
陵南渕の副将である上家と下家が驚くくらい、感情が乱れているのが分かる小百合である。
その上家と下家の驚きの表情に気付き、小百合は自分を諫めた。
(いけない、何をイラついてるの私…。もう2回戦目は始まったのよ。集中!)
東1局。小百合は南家。ドラは西。
しかし8巡目。親の上家がリーチ。
小百合が一発で引いたのは九萬である。
(…あの捨て牌に萬子は自殺行為だわ)
仕方無しに現物の一筒を切る。
結局全員ベタオリで、この局は流局に終わった。
「聴牌」
「ノーテン」
「ノーテン」
「ノーテンです」
(三・六・九萬の三面張…。振り込んだらまたズドンだったわね)
九萬なら三色の高目である。
これでいい───小百合は自分にそう言い聞かせた。
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