第160話:一人と戦っている訳じゃない
東場はそのまま荒れる事なく、筒井の僅差のトップ、小百合最下位のまま南場へ───
南1局、ドラは八萬。
「お、いいじゃないか」
小百合の好配牌に感心する和弥。
確かにパッと見では字牌対子を活かして混一色に行くのが最善に思えるが、ドラが八萬というのが少し判断を悩ませる。
「あんなペンチャンのドラなんて気にする事ないしょ」
確かに綾乃の言う通りである。
但し、この形なら鳴きに頼らざるを得ない。両方の役牌を泣けるとは思えないので、その場合はドラを活かし役牌・ドラ1という低打点で親を流すだけとなる。
ならば最初から見え見えでもホンイツに寄せていき、運よくツモが噛み合っての面前混一色・七対子を最良に考えながら手を進めるのが無難と判断したのか。
小百合は第一ツモの北を手の内に納め、九萬を切り出した。
「ドラ切りでホンイツ一直線じゃないんだね」
手役重視の由香らしい台詞である。
「万が一にもドラが重なるかも知れないだろ。役牌・ホンイツも役牌・ドラドラも一緒だ」
小百合も和弥と同じ考え。
他家が動きづらい序盤のうちにドラを離すべきだとも思ったが、万が一重なった場合は無理なく使えるので、手牌がある程度まとまるまで抱える決断をした。
すると次巡───早速ドラが重なってくれた。
「…これでチートイでも対々和でもいい訳だ。むしろヘンにホンイツ狙うよりいい」
「ちぇー。結局は和弥クンの言う通りになっちゃった」
確かにこちらでも染め手に無理に寄せずとも、打点は十分である。それどころかドラをポンすることができれば、ホンイツに行くよりも高くなる。
(ここは孤立している八筒かしら…)
或いは字牌のどちらか?
迷ったが小百合は前者を選択した。七対子で纏まった場合、字牌単騎のほうが有利だと思ったからだ。この面子では、字牌単騎も簡単に看破されてしまうだろうけど。
(そういえば。五条さんから直撃取った竜ヶ崎くんの七対子、凄かったわ…)
2巡のツモ切りを挟み、6巡目に五筒を引いてきた。七対子の一向聴ではあるが、まだ横への可能性も捨てきれない。私は他家に動かれないであろう自分の風牌、北を切った。
(手牌を短くすれば必然的に防御出来ない…。七対子は本来攻めの役ではないわ…)
ここまできたら面前で仕上げたい、という気持ちはやはり強かった。
が、次巡に筒井が白を切った瞬間、小百合は反射的にポンの発声をしていた。直後に後悔の念がよぎったものの、大会で「やっぱナシで」などというワケにもいくまい。
「え、鳴いちゃいますか!?」
モニターの前で紗枝も、驚きの声を上げる。
「『押さば押せ、退かば退け』だ。麻雀の大鉄則だよ。これで満貫以上確定なんだし」
小百合を庇うかのような和弥の発言。もっとも和弥に小百合を擁護したつもりはない。
(そこから日和るようなことだけはすんな、委員長…)
小百合は打・九筒。しかし、入れ替わったツモを引き入れた筒井は、下品な笑みを浮かべた。
「リーチ」
(發の対子落としからのリーチ…。字牌はないわ。捨て牌はタンピン系だけど、筒子は一枚だけ…)
中に手をかける小百合。
(これに振り込んだら絶対絶命になるわ…)
そう思い中を捨てる小百合。
「結局オリちゃうんだ…」
綾乃も何か悪い予感がするといった表情。その予想はずばり当たった。
「ロン」
リーチ・一発・三色・中・ドラ。
「12,000」
またも裏は乗らなかったが───1回戦目は小百合が飛んで終わった。
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