第159話:殴り合い
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2巡後。小百合が掴んだのは、よりによってドラの六索だった。
和了り牌でなければ捨てるしかない。
河にそっとドラを置く小百合。
「ロン」
ニヤつきながら手牌を倒す筒井。
「メンピン・赤2・ドラ。裏は…」
筒井は裏ドラ表示牌を確認する。幸いな事に裏ドラ表示牌は北だった。
「8,000」
「はい」
点棒入れを開け、目線も合わせずに筒井に点棒を渡す小百合。
(別に構わない。あそこにリーチに行くのは当然。そうよね? 竜ヶ崎くん…)
東2局。牌山がせり出てくる。
「決まったね。筒井くんの先制パンチってとこかな」
「東1局で痛いな。でも委員長もこれでビビったりなんかしない筈だ」
綾乃と和弥は「勝負はまだまだこれから」と言わんばかりの表情をする。
一方筒井も尊敬するが、団体戦優勝もしたい今日子は複雑だったが。
「お前は麻雀の“ブレーキ”と“アクセル”の使い方が本当に上手い、竜ヶ崎」
いきなり立ち上がったのは龍子である。
「……そりゃどうも。先生には負けましたけどね」
苦笑いを浮かべる和弥。
「問題は。お前ほどのブレーキとアクセルの使い分けを西浦が出来るか、という事だ」
「それを言ったら麻雀なんて打てないでしょう」
自分がイラついてるのが和弥にも分かった。確かに麻雀において「信じる」という不確定要素は、龍子の言うように次に繋がらない。
東1局の小百合の失敗点は、ツモが予想外に良かった事で「行ける」と深追いしてしまったことにある。さらに言えば筒井が想像以上の進化を遂げていたこと。
(…いや、そんなもんは結果論だ。あれなら俺でもリーチに行く)
ドラまたぎをツモっての聴牌なら、誰であろうと勝負に出ただろう。
(残念だったな。俺は今日この日のために、花澤に下げたくもない頭を下げて牌読みを練習したんだ)
早くも勝利を確信したのか、ククク、と下品に笑い牌を取る筒井。
(東1局の満貫でいい気にならないで)
ならば次からは───と、小百合は理牌するが、そんなに都合が良く逆転の一手など来るものではない。正直に言うと、小百合の思考は八方塞がりになっていた。
一発・裏・赤有り麻雀では手役よりも広い受けだ。しかし歩美や今の筒井のような打ち手のレベルだとあっさり読まれやすいのでまず出てこない。かといって和弥が歩美をKOしたような、奇をてらった受けにすれば待ちにするというのは今の小百合には思いつく戦法ではない。
(何を迷っているの…! 私は私の麻雀を打つだけ…。竜ヶ崎くんに散々言われたはず)
ならば自分が取るべき打ち方は、他者から出和了りの可能性を捨て、ひたすら広い受けを作ってツモ和了りに徹するしかない。
『南4局のダントツトップ以外は、アタリ牌が5枚以上あれば必ずリーチにいく。自分のスタイルに迷いが生じて勝手に自滅していくのを、俺は今まで何人も見て来た』
(麻雀は先にブレた人間の負け…そうよね、竜ヶ崎くん?)
ツモアガれるようになるために常に好形になる打牌をする必要がある。この面子を相手に───である。
決勝は3回の対局。ミラクルに期待するという呑気な構え方は出来ない。だからこそ、今回は普段やっている半荘戦以上に精密な戦いになることは明白だ。一過性の勢いだけで勝ち切ることは難しい。
小百合が一人思案の海に沈んでいるなか、次局は既に始められている。答えを出せずにいるまま、小百合は新しいツモへと指を伸ばした。
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