第157話:第六感
「たっだいまー☆」
何とかポイント差を維持して控室に戻った由香。3位、3位、トップだったが、由香の表情は「やり切った」と言わんばかりである。
「良くやったわね、南野さん。後は任せて」
扉を開けると意気揚々と、副将戦のために控室を出ていく小百合。
「……少しだけオメーの本気を見たよ。南野」
「あ、嬉しいなぁ!! 和弥クンっていつも目線合わせるのさゆりんだけじゃん。あたし達には目線合わせる事なんてほぼないし」
「……ケッ」
案の定本音を見せない由香。
ここで必要以上におだてる事もない───そう判断した和弥は、再び新しいガムを噛み始めたのだった。
◇◇◇◇◇
「あの…すいません。場所替えいいでしょうか?」
3連続最下位の高校の生徒が、対局前に小百合達に申し出た。
選手権の規約では対局者4人の同意があれば、席を変える事も出来る。
「俺は構わないよ?」
「私も」
久我崎の副将・筒井吾郎と陵南渕の副将も、この申し出には不服はないようだった。
「……私も問題ありません」
少々の沈黙の後。小百合も意を決したように同意する。これまでも今日子ほどじゃないにしても『麻雀に運や流れなんてない』を信じて来た小百合だ。
『麻雀なんてアプリゲーのガシャと一緒だよ。100%じゃない可能性なんて卓上の理論だ』
牌効率重視の和弥ですら、いつぞやこんな事を言っていたのを思い出す。
(一瞬ためらったのは、私も本格的に彼に染まって来たのかしら……)
小百合は嘲笑気味に微笑みを浮かべた。
以前の自分なら「負け席には座りたくない」なんて考えなど浮かばず、即賛成しただろう。
(全自動卓よ…。流れなんて関係ないわ)
こうして副将戦が始まった。
東1局。ドラは七索。小百合は北家。
しかし流れの急速な変化は、配牌にも表れていた。一言で言って、まとまりの欠いた配牌だ。
これでは役を複合させるのは、かなり骨の折れる作業である。
「…笑えるぐらいのクソ配牌だな。こんな配牌で字面通りに打つ事はねぇぞ、委員長」
控室のモニターを見ながら、聞こえる筈のないアドバイスを小百合に送る和弥。
「とりあえずタンピンは無理。でも全帯公にも遠いね…」
「西浦先輩、動揺してないといいですね…」
由香と紗枝が呻くように呟く。
小百合はとりあえず、麻雀では常とう手段である字牌整理から行った。
(関係ないわこんなの…。毎回いい配牌が来る訳じゃないんだし…)
しかし字牌の入れ替えだけで、全く手は進まない。
「誰かが大物手張ったら、ベタオリしていいなこれは」
「うん。これは捨てる局だね」
三向聴から全く進まない。小百合にも徐々に苛立ちが溢れてきた。
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