第156話:牙を剥く女
しかし和弥の予想とは裏腹に、1回戦、2回戦共に由香は3位が精いっぱい。
対局の時は
『対局の心構え? 特にないよ。あたしは相手が誰だろうと勝利目指して打っている』
という言葉通り、麻雀部に入ったのは「感性を大事にしたいから、維持したいから」という由香。
牌を触る独特の感覚は確かにオンライン麻雀では味わえない。それは和弥も同意見だった。
但し和弥にはある日を境に、由香は本気で打っているようには見えなくなった。確かに初心者のように無理に相手の聴牌にも突っ張り、常に大物手狙いの打牌。今日子あたりが見ていてカリカリするのも、無理のない事である。
とはいえ今は決勝の舞台。
いよいよ3回戦。起家だった由香はここ東場でも、浮上のキッカケを掴めずにいた。
(流石にいつものような、ふざけた打牌はしないな。連続3位だって南野のミスじゃねえ…)
そんなワケで、和弥はじっくりと由香の打牌に集中した。
南1局。ドラは六萬。由香の2回目の親である。
8巡目。由香はタンピン・三色・ドラ2の聴牌。
「これ和了れりゃ、大アドバンテージになるな…」
「そうね…安目でも11,600だし」
和弥も小百合も、いや他の部員も全員。由香のダマテン選択に文句をいうものは誰もいなかった。
だが……。
「私ならリーチ行くかな。皆手牌は気付いてるし、捨て牌や今のツモ切りで警戒度MAXになったはずだし。ダマにしてる意味はないと思う」
綾乃の意見だった。なるほど、確かにそうでもある。
10巡目。
三萬をツモった由香。当然ツモ切りかと思ったが………。
ほんの少し間を置いて、由香は三索の入れ替え切り。
「!?」
控室の全員が驚いた。
由香の捨て牌を見た下家には逆にチャンスと映ったようだ。
(一度ツモ切りのあと、少し間を置いて手出し…。難しい形の一向聴か)
下家はニ筒に手をかける。
(ドラを生かしてなんとか和了りたい。筒子の下は危ないと思って止めたが…今なら通るっ!!)
「リーチッ!!」
しかし───由香はパタリと手牌を倒した。
「ロン。18,000」
取材していた記者達が一斉にどよめく。
恐らく記者達にも、由香の素人っぽさは分かっていたのだろう。
「……今、南野に振り込んだ奴は。精神的にかなり沈んでいるだろうよ」
和弥の言う通りで、こうなるといくら裏ドラあり、赤ドラありとはいえ再び浮上するのは難しい。
1回戦目、2回戦目共に3位、3位だった由香だが、ミスをしない“ツモられ貧乏”で浮上できなかっただけだ。
「由香ちゃんにしちゃ随分セコイ手を使うね…。皆由香ちゃんの聴牌気配は感じ取っていたはずだよ。でもあの下家は今回もラス目、どうしても和了りがほしい。それで引っかかったって訳ね」
淡々と綾乃が解説する。
(ちげーよ先輩…南野は今まで牙を隠してただけだ)
南4局。
「ツモ。500・1,000」
由香があっさり和了って終了した。ポイントリードを守ったまま小百合、そして和弥にバトンを渡すという“中堅の役割”は、由香はしっかり果たしたと言える。
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