第155話:運任せ?
「さて。南野の出番か…」
いきなり椅子を移動させ、由香の対局を観戦する事にした和弥。
この光景には小百合も綾乃も、いささか驚いた。今まで遠目から見ることはあっても、最初から食い入るようにモニターを見るなど、無かったからだ。
「珍しいじゃん。アンタが由香の対局見るなんて」
「……ずっと感じてたんだよ。ヘンな違和感」
「違和感?」
今日子も紗枝も、ポイントでリードして浮かれている空気をかき消すかのような和弥の言葉に、ポカンとした表情を浮かべる。
「麻雀に限らず、この世で全ての“勝負”に勝つには三種類の要素が必要だ。それは経験、知識、向上心だ。ああ、後はほんのちょっとの運もか」
改めて聞くまでもなく、今日子は「そりゃそうでしょ」でも言いたげな表情をしていた。
「確かにな」
横から和弥に同意してきたのは龍子である。
「麻雀で一番簡単に伸ばせる能力は経験だろう。今はオンライン麻雀も豊富だ。とにかく打っていれば、経験は自然と積み重なっていく。しかし、だ。経験だけを積んでいってもそれだけでは上手くはならない。それは単に『たくさん打った』だけで終わってしまう」
龍子の台詞には、皆心当たりがあるのか納得の表情を浮かべる。
勿論それだけでも楽しい人間は楽しいだろうが。少なくとも和弥は『打ってるだけで楽しいタイプ』の人間ではない。良くも悪くも“劇薬”である和弥が入部した事で、麻雀部に意識の変化が起きたのは事実だ。
そう。負けるのが悔しいのなら、次の段階にいくために、やはり勝利への知識を身につけなくてはいけない。
麻雀のセオリーといえるたくさんの情報。
「例えばだ。竜ヶ崎が秀夫さんから教えてもらった、もっとも受け入れの多い選択をするために用いられる“牌効率”と呼ばれる打法。副露している相手の最終手出しから考えられる聴牌形や和了り牌の当て方の理論もある。
そしてそれらの面倒な理論をすべて覚えるには、やはり向上心が欠かせない。当然といえば当然ではあるが、本人のなかで“もういい”と思ってしまえば、それ以上の向上は望めない。これはなにも麻雀に限った話ではないが」
───それらの話を踏まえた上で、和弥には疑問に感じた事があるのだろう。一体先ほど彼が言った『違和感』とは何なのか。
「さっき先生が挙げたような知識はおろか、麻雀何十年も打ってるのにまともに点数計算すら出来ないっておっさんだって、紅帝楼に来る」
「……ようするに。何が言いたいの竜ヶ崎くん」
「お前ら。南野をどう思ってる?」
「ど、どうって……」
口ごもったが、今日子の評価は「未だに麻雀に運要素があると思ってる、常に大物手狙いの素人臭さがいつまでも抜けない友達」だった。
いや、それは麻雀部全員の評価と言って良かった。
しかし───龍子と、そして和弥の評価だけは違っていた。
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