第154話:しぶとさ
「凄い! 三倍満よ三倍満!!」
興奮気味にまくしたてる今日子とは対照的に、中堅戦に備えた由香は静かにモニターを見つめる。
(………)
いつもなら今日子と一緒に騒ぐ由香の冷静さに、何か違和感を覚えた和弥だった。
怪訝な表情を浮かべながらもガムの包みを開け、新しいガムを口中に放り込む。
結局紗枝は3試合でトップ、2位、トップとポイントで立川南が圧倒的に有利になった。
「ただいま戻りました!」
元気良く控室に戻って来た紗枝。
全員が戦いを労う前に、再びドアが開く。
「おや、ハナちゃん!?」
久我崎高校部長の麗美である。
「近くを通りかかったので、寄ってみたのよ。おめでと」
「はぁ……。ところで何の用事だ? もう中堅戦だっていうのに、大将自らとは随分と余裕だな」
思わず少々皮肉を込める和弥。ちょうど奥から綾乃が出てきて、彼女がその質問に答えてくれた。
「今更ハナちゃんが偵察とかする柄じゃないよ。───多分賑わってたから覗いてみた、程度じゃない?」
「褒めてるの? バカにしてるの綾乃?」
クスクスと笑いながら、勝手に控室の椅子に座る麗美。
「半々!」
「あっそ……」
麗美は呆れた様子で溜め息をつき、和弥を見た。
「よっ。元気してた?」
「あンたに俺の健康状態をイチイチ報告する義理なんざねえよ」
麗美と目線を合わせようともしない和弥である。
「うわーん! 綾乃! あんたんトコの部員が私に冷たいんだよ〜」
ワザとらしい嘘泣きをしながら綾乃に泣きつく麗美。
「いや、一体何しに来たんだよマジであンた?」
会話が途切れるのを待っていた和弥は、ここぞとばかりに麗美を睨みつけた。
「うーん。それは今はここでは言わない方がいいかな?」
だったら最初はここに来るな…と言いかけた和弥だが、麗美の真意はすぐに分かった。チラリとだけ見た目線の先には、龍子がいた。龍子がいると言えない話なのだろう。
「まあ、余計な事を言うとヘンな心理戦とも取られかねないしね。大会が終わってから話すよ」
「そうしてくれ。あンたは白河先輩とダチってだけで俺から見たら赤の他人。どこの馬の骨ともわからないような人間となんて、仲良く話すつもりはねえよ」
少々控室に白けた、気まずい空気が流れる。
「なーんか歓迎されてないね、私。ま、今度ゆっくり話しましょ」
自分の言いたい事だけ言って、さっさと控室から出ていく麗美。
「それじゃ、そろそろ中堅戦が始まりますので…」
逃げるように由香が控室から出ていく。
(何を言いたかったんだ…)
ま、いずれにせよ、直にわかるだろう───和弥は深呼吸をして気持ちを宥め、ガムを噛み始めた。
月・水・金曜日に更新していきます。
「面白い」「続きを読みたい!」と思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします。
していただいたら作者のモチベーションも上がります!




