第149話:決勝開始
「着いたぜ」
駐輪場の近くの街路樹にセミでもいるのか。ミンミンと鳴き声が響く。
「……」
何も答えず、キャップヘルメットの顎紐を外す小百合。
「なんだよ? 緊張してるのか?」
「それはそうでしょう。貴方はどうなの?」
「いや、別に……。ここまで来たらどうもこうもないだろ」
歩くだけで汗が滲む暑さ。にも関わらず、少し寒気すら感じる和弥であった。
(今緊張してないとか言って、これか…)
深呼吸をすると、生ぬるい空気が肺に入ってくる。
「行こうぜ」
2人は真っすぐ会場に向かう。
◇◇◇◇◇
「ここまで来れたのは本当に竜ヶ崎くんのおかげだよ。本当にありがとうね」
控室に入った途端語尾に♪でも付けそうな表情で、綾乃が寄って来た。
「───んな事はねえよ。個人戦はともかく、団体戦は俺一人が勝っても他がダメなら敗退なんだし」
「あら、嬉しい。あたし達を戦力として見てくれてるんだ」
「………」
相変わらず今日子も突っかかってくるが、和弥は何も言わず椅子に座る。
(同年代共がやたら自慢する麻雀大会とやらを、『少し手伝ってやるか』くらいの気持ちでここまで来た。でも今更負けて言い訳を『ボランティアだから』なんて格好悪すぎる)
噛んでたガムの味が薄くなったのを確認すると、それを包み紙にくるんで捨てる。
(だったら最後も勝って優勝をプレゼントしてやるか)
隣から聞こえてきた由香と今日子ギャーギャー騒ぐ声に、和弥は小さく頷いた。龍子もくすりと笑ってから続ける。
「キミがそんなやる気のある表情をするのは珍しいな。たかが学生麻雀、とでも思っていたが」
「たかが学生麻雀、は今も変わってませんよ。ただ───」
「ただ?」
龍子も非常に、和弥の回答に興味があるようだ。
「まぁ、先生も言ってたでしょ。『シャーレを掲げる自信ある』って。オヤジと打った事のある人が学校の顧問とか何かの縁でしょうし。顔は立てたいと思っています」
外見からは想像もつかない言い回し。改めて控室の全員が、和弥を振り返る。
その時だった。
『これより、団体戦決勝戦の先鋒戦を行います。参加選手は15分以内に受付にお越し下さい』
スピーカーから、アナウンスが流れる。
「……行ってくる!!」
今日子が椅子から立ちあがった。
「ふふ……今回ばかりは、譲れないもんね」
「頑張れ今日子っ!!」
由香の激励を受け、今日子は勢いよく控室から出ていく。
「さて、私達はリラックスタイムだね。まずは今日子ちゃんの戦いっぷりを拝見」
綾乃が早速モニターをつけた。
「久我崎も陵南渕もいる。楽しみな限りだな」
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