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第146話:近くて遠い存在

 結局半荘(ハンチャン)7回。和弥は一度も最下位ラスにならずに終わった。


「やーれやれ。いつも今一歩で和弥くんに逃げられるな」


「ツキすぎだよ。8分2分で持っていかれてるんじゃないかな」


 男達はバサバサと、財布から10,000円札を出す。


「そんな事はありませんよ。せいぜい6分4分じゃないですか」


 和弥のこの言葉が単なる謙遜なのは、小百合が誰よりも分かっている。


(明らかに竜ヶ崎くんは手を抜いて打っている───)


 一緒に店を出た小百合の目には、和弥の背中が大きく映った。

 彼と知り合ってからこの3ヶ月は、本当に濃密な時間である。


「本当に、勝つのが当たり前って感じなのね。竜ヶ崎くんって」


 あまりに堂々と何事も無かったかのような和弥の態度に、溜め息混じりに呟いた小百合だった。


「なんだよ。委員長は俺に負けてほしかったのか」


「そんな事はないわ。貴方あなたからは負けて狼狽する姿が想像できない、って事よ」


「残念だが、さっきも言った通りだ。俺だって6回打ったら4回は負けてるぜ?」


 和弥の言葉を聞いて、クスリと笑いが浮かぶ小百合である。


「その4回ってワザとでしょう?」


「……まーな。秀夫さんからも3したの客を食い荒らすのは止めてくれ、って言われたんでな。1,000点100円(テンピン)1,000点200円(リャンピン)じゃデカく勝って最小限で負ける、を徹底してる。麻雀でわざと負けるなんて、不本意そのものだがな」


 信号で立ち止まった和弥はため息をついた。


「但し。4うえでは容赦しないがな」


「もしかして。紅帝楼こうていろうの人達も知らない“竜ヶ崎くんの本気”を私は見れているのかもね」


 流石に和弥の照れたのか、頬をポリポリと指でかく。

 一体どうしてこんな人が立川南に入学しようと思ったんだろう───ふと疑問が湧く。


「ねぇ、竜ヶ崎くん」


「なんだよ?」


「どうして貴方、立川南に進学しようと思ったの?」


 少し考えてから和弥は答えた。


「……家から近いから」


「あのマンションから?」


「ああ。それに中学までは勉強出来たんだぜ、俺?」


「えっ!?」


 本気で驚いた表情をする小百合に、和弥は苦笑いする。


「何驚いてんだよ。勉強は学生の本分だろうが。それに中学までは音楽で食っていく事も考えていたからな。音大への進学も一時は真剣に考えてた」


 確かにあの記憶力の良さなら『中学時代は勉強は出来た』のもうなづける話だ。瞬間記憶能力を持っている綾乃すら上回る雀力と観察眼。

 A組の誰も知らない和弥の素顔をどんどん分かるようで、小百合は内心優越感に浸れていた。

 一方の和弥は小百合の表情を見て、きょとんとする。男子からは傲岸不遜ごうがんふそんな奴と思われ、逆に女子には人気だが掴みどころのない男と思われている和弥。

 A組の誰も知らないそんな和弥の素顔をどんどん分かるようで、小百合は内心優越感に浸れていた。

 一方の和弥は小百合の表情を見て、きょとんとする。


「どうしたんだよ。俺、何か気に障る事言ったか?」


「…ううん。ねえ、竜ヶ崎くん」


 小百合は和弥の腕に、自分の両腕を巻きつけてきた。


「お、おい、委員長…」


「これから貴方のマンションに行ってもいいでしょ?」


「……お袋さんには連絡入れておけよ」

月・水・金曜日に更新していきます。

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