第145話:息抜き
やはりベッドに横たわってから、小百合の意識はすぐに途絶えたようだ。
カーテンを閉めてなかったせいか、差し込んできた朝日で目を覚ましたが、小百合はカーテンを下げると再び強引に眠り続けた。いつもは早起きするのだが、今日は何故か寝ていたかった。
とはいえ流石に昼を過ぎたあたりで、誰かが激しく自室のドアをノックしている。
「小百合! いい加減に起きなさい!!」
声の主は心配した母・双葉であった。
時計を見ると10時間以上寝ていた事に驚いた小百合は、慌てて体を起こした。
「ご、ごめんなさい」
まずはシャワーを浴びる事にする。お湯を浴び浴室から上がると、すっかり冷めた朝食を昼食代わりにし自室に戻る。
軽く身だしなみを整えてから、部屋を出る。それほど早い時間ではないハズだが、通路は静まり返っていた。
(これからどうしましょう……)
まず頭に浮かぶのは和弥である。今何をしてるんだろうか。
SNSで連絡を取ってみる。
『紅帝楼に向かっている』
何とも彼らしい、ぶっきらぼうな返答だった。1円の金にもならない今回の選手権。
やはり和弥的には、心のどこかでは物足りなさがあるんだろうか。
「お出かけですかお嬢様。遠方でしたら車を…」
「あ……。でしたら駅まででいいので、送っていただけますか?」
運転手の申し出を受け、杉波駅まで送ってもらう。この時間だ、外は暑い。駅を出て紅帝楼にいくまでにまた汗をかくかも知れない。しかし暑さを出来る限り遮断出来るならそれに越したことはない。
そう思うと、拒絶したくなるような気持ちは微塵もなかった。
◇◇◇◇◇
北高田駅についた小百合。向かうは例の雑居ビル。
「ふう…」
カランコロン、と木製のドアに取り付けられたカウベルが鳴る。
「いらっしゃいませー! お一人様ですかー!?」
早速店員達が景気よく声をかけた。
しかしメンバー達の表情から、愛想笑いが消えたのが即座に分かった。
最早小百合もこの店ではある意味有名人だからである。
「いらっしゃい。和弥くんなら12番席だよ」
珍しく店内にいた秀夫が、小百合を見て声をかけた。
「ありがとうございます」
「俺の親からですか」
サイコロボックスのスイッチを押そうとした和弥は、何か気になり後ろを見た。
「こんにちは、竜ヶ崎くん」
「…委員長か」
小百合を確認した和弥は4牌づつ牌をとっていく。
(配牌はいいな……この後何が来るかだ)
和弥が第一打に切ったのは打・二索だった。
(え…? どうして?)
「四風連打の可能性もあるだろ。紅帝楼は採用してるんだ」
四風連打とは、最初の打牌で他のプレイヤー3人も同じ風牌を捨てた場合に流局とするローカルルール。1巡目でチー・ポン・カンがあった場合は成立はしない。
また、ローカルルールとはいえ紅帝楼のように、採用している店は意外に多いのである。
「西」や「北」を切った場合、他の3人がそれに続いたら四風連打となり、途中流局となる。
起親でいい配牌なのに、それを流されては和弥には辛いスタートだ。
それ故に和弥は二索切りから始めたのだ。
4巡目。五萬を引いた和弥は、今度は二萬切りだ。
(えっ!? 三色固定!?)
普段なら萬子の伸びを期待するはずの和弥だが、相手の捨て牌を見て納得出来た。
一萬が4枚見えている。という事は四萬が持たれて枯れている可能性が、かなり高いということだ。
(こういう事も竜ヶ崎くんと知り合ったからこそ、注意できたことなのよね…)
元々二向聴スタートだったが、あっという間に牌がくっつき聴牌したのは5巡目だった。
五筒か八筒をダマで狙い撃つのも可能だ。
そう。リーチをかけなくても充分だか
「リーチ!」
和弥は敢えて西を横に曲げる。
これでロンで安目でも満貫確定だが、真の目的はそれではない。
「まずはかいくぐれるか」
(さて、どうするオッサン?)
全員現物を合わせて来た。
「…ツモ。安目ですが一発で6,000オール」
(……赤があろうと無かろうとやっぱり強いのね、竜ヶ崎くんって…)
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