第144話:小百合の憂鬱
そのままNinja400の爆音は、遠くに去っていった。
小百合はそのまま自宅の玄関をくぐる。
「ただいま」
「お帰りなさい、お嬢様」
使用人や女中達が皆一斉に小百合を出迎える。
準決勝で敗退した事で今までの緊張から解放されたのか。小百合は思わず、体の力が抜けて壁にもたれかかってしまう。
「あ、あの……!?」
「お嬢様!?」
使用人や女中達が一斉に小百合に駆け寄る。小百合の表情はひどく疲れ果てているようにも見えた。
「……大丈夫です。少し疲れただけです」
気持ちが悪くなるような疲労でもない。小百合はくすりと小さく笑った。
「大丈夫です。心配かけてすみません」
「……はい。分かりました」
使用人や女中達はそれ以上何も言わず、去っていった。
本当は疲労について追求しようと思ったものの、知っていて見過ごしてくれたのかもしれない。だったら変に言及するのは野暮なことといえるだろう。
なんだかどっと疲れが溜まったような気もした小百合だが、そのまま当初の予定通り浴室へと足を向けた。
個人戦ベスト4で敗退。しかし小百合に不思議と悔しさはない。
いや、悔しくないと言ったらウソになる。
だが今は団体戦。そして和弥の勝利の方がずっと気になっていた。
湯あみから上がり、脱衣所を出る。小百合
「わっ!?」
小百合が驚くのも無理はない。出口には母・双葉が立っていたからだ。
「小百合。話があります。ちょっと応接間までいいですか?」
「は、はい…」
別に怒っている訳でもないだろうが、しかしこういう表情の時の双葉は冗談を言うような性格ではない。
何を言われるのかと思いながら、小百合は渋々返事をした。
「話は何かしら?お母さん」
「今日はどうやって帰って来たの? 三村さんの話では、バイクの排気音が聞こえたそうだけど」
これは隠しても仕方ない───そう悟った小百合は、素直に打ち明ける事にした。
「竜ヶ崎くんに送ってもらったの」
「そう」
「もういいかしらお母さん。お腹も空いたわ」
双葉はまだ何か聞きたそうだが、小百合は無理やり話を切る。
結婚してからもずっと想い続けていた男の息子だ。流石に娘と同学年の少年に手を出すとは考え難いが、直接会いに行っているところを見ると、実の母親とはいえ油断出来たものではない。
夕食を終えると部屋に戻り、小百合はベッドに横たわった。
もう歯も磨いているし寝ようと思えばさっさと寝つけそうな感じもするが、すぐにでも意識をシャットアウトできそうなほどではない。とはいえ横になって目を閉じていれば、いつの間にか眠っているだろう。
個人戦敗退なんて事があった日は早めに寝るに限る。しかし今日に限っては、なぜか麻雀への意識が希薄になっていた。
理由は小百合自身も分かっている。自分よりも和弥の闘牌、和弥への恋愛感情が勝り、純粋に麻雀に向き合うことができなくなっているのだ。
(……処女まであげたんだし、だ、大丈夫よね?)
綾乃、紗枝も和弥に関する感情をほぼ隠さなくなっている。
特に入部以来、ずっと掴みどころがないと感じていた綾乃だったが。遠回しに自分に宣戦布告してきた。
綾乃の“心の闇”もハッキリと覗けた気がした。
(麻雀打ちなら、麻雀で決着つけますよ。部長───)
小百合は静かに布団を被った。
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