第143話:最終決戦に
第七章スタートです!
こうして追い込まれながらも、しかし決勝進出を決めた和弥だが、特別な精神の高揚などなかった。今日は集中力を高めるため朝食を抜いてはいたが、不思議なくらい空腹も感じられない。龍子の激励も、部員達の称賛さんもどこか他人事のように感じていた。
(兄貴はどうか知らんが。妹は一回崩れたら脆かったな。個人戦はあとは久我崎のみか)
結局、久我崎部長の花澤麗美以外は敵ではない。発岡恵と鳳美里が手強かったくらいか。
そんな実感を改めて感じた和弥である。勿論団体戦は陵南渕も決勝に進んでいるだろうし、そこでまた恵とは3度目の対戦があるだろう。
今頃歩美は兄に『敗北の報告』をしている頃か。しかしそんな事を気にしても仕方ない。
現に秀夫の裏雀荘ではこれまで、何人もの雀バカの人生を終わらせてきた和弥である。
(そうだ。久しぶりに紅帝楼に顔を出してみるか)
と、そんなことを考えていた時───
「竜ヶ崎くん…?」
不意に声をかけて来たのは小百合であった。何気にボーッと歩いている内に駐輪場のバイクの前に来ていたが、小百合も声をかけられなかったのだろうか。
『分かるわよ。私とお兄の両親………アンタの父親のせいで破滅したんだから』
歩美の言葉がフィードバックする。だが、蛇の道は蛇。破滅が嫌なら高レート麻雀など打たず、それこそ競技麻雀で打っていればいいのである。
やはりこの手の話は、そういう道の人間に訊くのが手っ取り早いだろう。勿論和弥が思い付いた人物は秀夫と龍子だった。
「なあ委員長。白河先輩の後の部長は間違いなく委員長だろうから、先に言っておく」
「え? 何かしら?」
和弥からキャップ型ヘルメットを手渡された小百合は驚いた。今まで和弥が話しかける事はあるにせよ、麻雀部の事を話題にした事はなかったからだ。
「一応東堂先生との約束は守る。ただ、この大会が終わったら───」
「え、ええ…」
和弥の真剣な表情に、小百合は一抹の不安を覚える。
「トレマや大会以外は基本幽霊部員だと思ってくれ」
「……分かったわ」
回答は限りなく最悪に近い状態だったが。それでも「やっぱり辞める」とか言わないだけどマシである。
小百合は頷く事しか出来なかった。
◇◇◇◇◇
珍しく和弥は、今日は小百合を実家前まで送ってくれた。
(でっけぇお屋敷だこと…。本当にお嬢様っているんだな。……この中に委員長そっくりなあの和服美人がいるのか)
一度父親が若い頃はどんな男なのか聞いてみたい気持ちもあったが、出来るだけ我慢する事にした。
自分もゆくゆくは新一と同じ社会のアウトローへの道を歩むだろう。ヤクザ等の反社組織に代われている代打ちと大差はない。
そんな自分と関わるのは、西浦親子にとっても得策ではないだろう。
「じゃあな、委員長」
和弥はNinja400のアクセルを吹かす。
「また水曜にね、竜ヶ崎くん!」
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