第142話:自滅する女
※前回「牌譜が入ってない」とのご指摘あり、修正しました。
「それでは3回戦目を開始します」
係員の声が鳴り響く。
東2局。ドラは南。
「ロン。8,000」
またしても和弥が歩美からダマテンの満貫を直撃したところで、綾乃が帰って来た。
「ただいま。私は決勝進出。竜ヶ崎くんの調子はどう?」
裏ドラのみ有りルールの綾乃ですらこれだ。やはり偶然要素が一切無く、役を絡めないと高い手にならない完全競技ルールは時間がかかるようだ。
「今3回戦目ですが…もう勝負はついたも同然です。今竜ヶ崎先輩が5,200と満貫を和了りました…」
紗枝が歩美に同情するような表情で答えた。
2回戦目の南3局まで、一点読みに等しいレベルで和弥の聴牌形や和了り牌を当てていた歩美の放銃が止まらない。
東3局。ドラは九筒。和弥の親である。
「おい。さっさと切ってくれよ」
和弥に注意されるまでもなく公の大会にはあるまじき、相当な長考であった。
「わ、わかってるわ!」
係員も注意しようかと思ったほど、歩美は迷い抜いていた。
(またダマで待たれているかも…)
和弥は3巡ツモ切りなのだ。もしかすると、またダマテンかも知れない。
(と、とりあえずこの男の現物で…)
和弥の現物の北を切った、その時だった───
「ロン」
「えぇっ!?」
上家がゆっくりと手牌を倒す。
「面前混一色・七対子・混老頭・ドラドラ。16,000」
歩美のトビである。
「え、ええ…」
「あの見え見えのホンイツ・ホンローに振っちゃう…?」
立川南の控室も、歩美のこの放銃に騒然となった。
1回戦目で圧勝した歩美の姿は、もうどこにもない。
「よしゃっ! 逆転トップだ!!」
上家が両方の拳を握りしめて喜ぶ。
選手権では時間短縮のため昨年から誰かが飛んだ場合、そこでその対局は終了となる。
「このっ!! 勝負の邪魔しやがってっ!!」
「うわっ!? 何すんだよっ!?」
先ほどの女子口調はどこかに消え失せ、喧嘩口調となり上家の男に卓上の牌を投げつけた。
「君っ!!」
係員に注意されようと、文字通り狂乱した歩美にはそんな声は届かない。
慌てた数名に取り押さえられる。しかし───
「離せ! 私に触んなっ!!」
激昂した歩美の怒りは収まらなかった。
結局歩美は3回目の警告としてその場で失格となり、当然ながら4回戦目は不続行。和弥の決勝進出が決まった。
「ふん」
まだ狂乱している歩美を元に、和弥は控室に去る。
◇◇◇◇◇
「ただいま」
何事も無かったかのように、控室の扉を開ける和弥。
「お、お帰りなさい…」
1回戦目は龍子以外の全員が(もう2位狙いしか…)と思っていた。
しかし2回戦目で信じられない逆転勝ちを収め、何事もなかったかのように戻って来た和弥に、控室内の誰もが言葉がない。
「なんだよ。俺が決勝進出したのがそんな不思議なのか」
「……本当に新一さんそっくりだな」
「何スか。まさか先生まで『少しは手加減してやれ』なんて言い出したりしませんよね」
一度腰に伸びを入れてから、椅子に座る和弥。
「そんな事はないさ。だったら逆にキミに失望していたよ」
残るは団体戦、個人戦も決勝のみとなった。
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