第140話:ラッシュ
「はああああああああっ!?」
流石に歩美はガタリと、椅子が鳴るのも意に介さず立ちあがる。その様子には流石に上家も下家も驚いた。
七筒単騎。
今まで歩美が兄と集めた和弥の闘牌データでは、和弥が七対子で七筒の単騎待ちなど、ありえなかったからだ。
「そんなに驚くなよ。俺だってこの捨て牌で、チートイだとバレてない可能性が0%なのは分かってる。だったらむしろ、字牌じゃない方がいいだろ」
怒りでブルブルと震える歩美。
「か、買い被り過ぎてたわ…。笑えるくらい初心者みたいな打ち方するのねあんた…。い、一度データをリセットした方がいいわね…」
「何言ってんだ。和了りたいから七筒待ちにしたんだよ」
「はぁ?」
余裕のあるフリをしてるが、歩美は笑顔が引きつっているのに気付いていない。
「お前、筒子の混一色だろ。俺がリーチかける前からすでに一向聴だったろ。張ったら余った筒子を遠慮なく切ってくる可能性高いもんな」
「お、おめでたいわねあんた…。そんなたまたまで『裏をかいてやった』ってアピってるワケ…?」
大会係員が、また激怒して歩美に駆け寄ってきた。
「君!! いい加減にしたまえ!! 2度目の警告だ!!」
大会ではサッカーのような警告制度を採用しており、3度目で失格処分となる。
ブルブルと怒りを堪えながら、歩美は静かに椅子に座り直す。
一方、立川南の控室では───
「ちゅ…中の方をツモって聴牌…」
「……あの竜ヶ崎先輩が…七筒で単騎…」
「いや、ちょっと待って。流石にあたしもなんて言っていいのか…」
南4局・一本場が始まるが、全員驚きを隠そうともしない。いや。小百合も、そして龍子も微妙な表情をしている。
「まだ21,000点差…。しかしだ。ついに竜ヶ崎の一発が入ったな」
龍子も内心、この単騎待ちには驚いていた。
(去年まで気にも留めなかった強い人が、どんどん出てくる…けど…)
去年はボロボロのメンバーで挑んだため、小百合はほぼ個人戦一本だった。しかも赤有りルールである。
(私が完全競技ルールだったら、竜ヶ崎くんのようにすぐに順応出来るかしら…)
本当は後ろで和弥を応援したい。そんな気持ちを必死に抑えながら、小百合も再びモニター越しに観戦する事にした。
ドラは四筒。
「リーチ」
6巡目で早くも和弥の親リーチである。
「リーチリーチって、しつこい男ね…」
今までは心の中で思っていた事だったが、歩美はどんどん口に出してきた。
「あんまり思ってる事をクチにしねぇ方がいいぞ。あと一回で失格だろお前」
(ふざけんじゃないわよ…!!)
歩美の苛立ちが頂点に達しているのは、上家と下家も分かるほどである。
(普通に面子系の捨て牌…全帯公三色にいくつもりだったけど。ドラソバ含めた中張牌は現物以外捨てられないわ…)
歩美は対子だった西に指をかけた。
(どうせこの手じゃ戦えない。安手だろうし。ツモるならツモって)
「ロン」
「はぁっ!?」
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