第139話:足がかり
「『七対子は本来攻めの役ではない』今そう思っただろう、西浦?」
「は、はい…」
龍子に本心を読まれた事に、小百合はギクリとした。自分はそんなに感情が表に出やすいのか?
一瞬不安がよぎる。
「その通りだ。よほど早い聴牌が見えてるなら話は別だが……。相手に先手を打たれると、どんどん苦しくなる。攻めきれずに守勢に回りかけている。それが今の竜ヶ崎の状況だ」
「確かに……」
龍子のこの意見には小百合も賛成である。対照的に七対子の大好きな由香は、頬を膨らませるが。
6巡目。今度は一萬を切る歩美。
「ポンッ!!」
これで和弥の上家は一向聴だ。
神様はここで意地の悪いイタズラを仕掛けてきた。歩美のツモは中だったのだ。
(この中を切る訳にはいかないわね…。ここで切っちゃえばこいつを楽にするだけよ。足止めさせないと…)
歩美は躊躇なく、使い道の無くなった二筒を切る。
(チ…。早くも筒子があまり始めたか…)
確かに字牌の出が著しく悪い。混一色の仕掛けが2名もいるからだ。勿論七対子狙いで重なっていないのもある。が、これが和弥が三元牌を未だ切れない理由である。
この競技ルールでそれらが意味するのは、早い聴牌が警戒されているという事だ。
7巡目。上家が七萬をツモり、先に聴牌。
(……二つも晒してるんだ。發は危ないが…勝負!!)
卓上に捨てられる發。
(ん…!?)
(あ…)
和弥も歩美も生牌の發に驚く。下家に至っては露骨に安心した顔をしている。
当然合わせ打つ和弥。下家もだ。
(…ったく。余計な事してくれたもんだわ。捨てなきゃ竜ヶ崎をまだ金縛りに出来てたのに)
歩美のツモ。五萬である。
(…そんなに和了りたいならどうぞ!!)
五萬を叩きつけるように打つ歩美。ピクリと動く上家。
(やっぱり張ってるのか…。だが…まだ終わっていないっ!!)
8巡目。ツモ山に手を伸ばす和弥。
歩美は訝し気な表情をする。ツモって来た牌は無駄ヅモだろうが必要牌だろうが、普段はほぼノータイムで切る和弥が珍しく長考していたのだ。
「どうしたのよ? あんたが長考なんて珍しい事もあるのね」
「聴牌したんだよ」
カタリと点棒箱を開ける和弥。
「ふーん。私ならダマだけどねその手は」
「どうせ最下位なんだ。点棒も今更だ」
一方、立川南の控室では。
「えぇ!?」
「あれでリーチ!?」
という今日子と由香の絶叫が鳴り響いていた。
そんな立川南控室の喧騒など当然和弥には分かろうはずもなく、リーチ宣言牌を横に曲げる。
その牌は───白だった。
「……ポンッ!!」
確認した瞬間、大袈裟なまでの声量でポン宣言をする歩美。これで歩美も聴牌だ。
(ここまで白を絞ったのは褒めてあげるわ。でも…ここであんたに連荘させるほど、私は甘くないわよ)
歩美が指をかけたのは七筒である。
(あんたの待ちは分かってるわ。白と同じくらい切りにくい牌…中でしょ。この中は絶対に打てない。四面待ちは無くなるけど…中単騎よ!)
そっと河に七筒を置いた。しかし───
「ロン」
「………え? え!?」
驚愕の表情を浮かべる歩美を後目に、パタリと手牌を倒す和弥。
「12,000」
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