第137話:ラストチャンス・1
南2局。歩美の親である。ドラは八索。
(……)
南家の河を確認するや、生牌の白を捨てる歩美。
「ポン!」
10巡目。今度は出来面子からドラを選んで捨てた。
「ロン。2,000」
南家が手役を倒す。
「随分甘い牌を捨てるな。親はいらないのか。流石に焦りすぎだろ」
流石に和弥も手牌を伏せる。
しかし歩美は嫌な笑いを浮かべると、南家に点棒を渡しながら口を開いた。
「42,000点差よ? もう勝負は決まったも同じでしょ。さっさと3回戦目にいきましょうよ」
この和弥、歩美の会話には後ろの大会係員がまたムッとした表情を浮かべた。
南3局。7巡目。ドラは六筒。
「リーチ」
いくら弾き返されても、果敢な和弥のリーチである。
(しつこいわねー。馬鹿の一つ憶えみたいにリーチリーチって。まだ私を捲る気でいるワケ?)
「うーん……どうしようかしらね」
歩美が自分の切り番で、全員の捨て牌を見回しながらワザとらしくそう呟いた。
迷ったフリしてドラ表示牌の一萬を切り出す。
「ロン。2,000」
今度は和弥の下家、西家が手牌を倒した。
「必死だな。2回連続で差し込みか」
「は! ついに泣きが入ったのね。別に頼まれて振り込んだワケじゃない。こんなの不正でもなんでもないでしょ。私の事より自分の心配でもしたらどう?」
確かに歩美の言う通り。これで和弥が最下位である。
「南4局は俺の親だ」
一方、立川南の控室も大騒動だった。
「な…なんなんあの子…?」
「トップを守りたいのは分かるけど…大きな手だったらどうする気なのかしら…」
今日子も小百合も不可解にしか思えない歩美の打牌だが、龍子だけは平然としていた。
「一発・裏ドラ・槓ドラ・赤無しだから出来る打ち方だ。手が膨らみにくいのを分かっているんだろう。それともう一つ…」
「もう一つ?」
訝し気な表情で尋ねる小百合。
「トップを取るだけじゃない。何がなんでも竜ヶ崎をラスにしたいらしいな」
いよいよ南4局。競りあがる牌山。
サイコロボックスのスイッチを押し、サイの目を確認する和弥。王牌を分けドラをめくった。
ドラ表は三萬、すなわち四萬である。ゆっくりと手を伸ばし、4牌づつ取っていく。
(やれやれ。八方塞がりとはこの事だな…。この女の読みを外さない限り、俺に勝ち目はない)
ドラ入り面子が見えた。
(もし俺の攻撃を最後まで防げたら、認めてやるよ五条歩美…。お前は俺より上だってことをな…。だがな…。俺は最後まで逆転の手は打つ!!)
手を開ける和弥。
ゆっくりと理牌していくと先に、立川南控室に絶望の声が上がった。
「なんなのあの配牌…」
「まさかここに来て配牌が腐るなんて…」
和弥は何事もなかったのような表情で、第一打に手をかける。
「ええっ!?」
控室では龍子以外が全員、一斉に声を上げた。
和弥が選択したのは、ドラ表の三萬だったからだ。
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