第136話:崖っぷち
勢いがある相手だからこそ、ここで連荘しなくてはいけない。セオリーはそうなのだが、なかなか上手くはいかない。配牌を見てガッカリする。
一体聴牌はいつになるやら───感想はそんなものだった。
それでも無駄ヅモが少なければ、捨て牌選択さえ間違えなければどんな手でも仕上がる。逆もまた然しかり、配牌がどれだけよくてもツモが噛み合わなければアガれない。
ゆっくりと第一打で九筒を捨てる和弥。
(本線は全帯公か、混一色か…)
しかし萬子にも索子にも次々と牌がくっついていき、一向聴だ。
10巡目。
あれよあれよと高目で一通聴牌。当然点棒箱を開ける和弥。
(この女にダマテンの意味はない……)
「リーチ」
麻雀で警戒されるのはある意味いい事でもあり、悪い事でもある。
いい状態というのは、これは単純に、警戒して字牌を抱えては自由が利かなくなり、手が遅くなるという意味だ。公九牌を鳴いただけで字牌を絞ってくれれば、聴牌できるのは本人だけとなる。
そして悪い状態───実際はこうなることのほうが多いのだが。切れない字牌が誰か一人に固まってしまい、他の2人には大したプレッシャーを与えられないという状況である。こうなると字牌を引いてしまった者は大人しくベタオリし、引かなかったものは気にせず真っ直ぐに手を作ってくる。
そして歩美や麗美、龍子のように。飛び抜けた読みの技術で回避してくる打ち手もいる。こういう相手にはブラフの公九牌ポンやダマテンなど、大した意味はない。
「芸がないね~」
相変わらず挑発的な笑みを浮かべ、ツモ山に手を伸ばす歩美。
そのまま七筒をツモ切りする。
(なんなんだこの女。トップ目のくせに…。現物切れよ)
ウンザリする和弥の上家。
(あのリーチに萬子は捨てられないな。ここは現物切っておくか…)
和弥の現物の二筒を切る上家。しかし───
「ロン。3,200」
タンヤオ・七対子。
和了ったのはまたも歩美である。
(私と違って他の2人は、アンタのリーチにビビってるみたいだしね。アンタの現物で待ってりゃ、必ず和了れると思ったよ)
「………」
南1局。ドラはその南だ。
(あの女のダブ南がドラか…)
6巡目。
「チーッ!」
456の筒子を歩美が鳴く。
直後の7巡目。
「ツモ。2,000・4,000」
ドラの南は歩美が暗刻で固めて持っていた。
「あ、あんなのあり…!?」
立川南の控室では、声を絞り出すように由香がうめく。
「これで44,000点差…」
常日頃から「麻雀に運や流れなんて存在しない」と公言している今日子も、今回ばかりは運の存在を信じたくなった。
「ただいま」
同時に小百合が戻って来た。表情を見ると、どうやら準決勝で敗退してしまったらしい。
「どうです? 竜ヶ崎くんは?」
しかし自分の結果の報告より、和弥の事をまず心配する小百合である。
「トップと44,000点差だ」
苦笑いしながら、あっさりと答える龍子だった。
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