第135話:気に入らない相手
(それにしても…。この男の聴牌スピードも、全然衰えないわね…)
歩美は和弥の捨て牌を確認する。
(發、ペンチャン落とし、東、そして九筒の対子落としから九索はツモ切り…。一向聴ね…)
8巡目。歩美のツモは發だった。
(役牌を絞る必要なんてない!)
平然とツモ切る歩美。
(!?)
ピクリと反応したのは和弥の上家、南家であった。
(2枚目の發か…。いつまでも和了れないとジリ貧だしな。とにかくここは食って様子を見るか)
「ポンッ!」
南家は打・二筒。
(あーあ、もう…。今さら親流しの役牌のみってワケ? 私も対面も早いのが分かってるかしら)
さらに9巡目。歩美は無駄ツモに終わるが、南家はツモを引き寄せ聴牌にする。
(チ…今端っこの5番目に入れたわね…。あそこは筒子…。和了り牌食い取られたわっ!)
奥歯を噛み締める歩美。一方、和弥も聴牌だ。
(張ったな…。ただ筒子の、しかも真ん中はこの女の大本命だ…。さっきの上家に余計な動きがあった。俺と対面のどっちに有利に働いたかは分からない)
ドラに手をかける和弥。
(それに…。ここでこの女に連荘させたら、もう勝負は決してしまう……)
「リーチ!!」
再び緊張感の走るB卓。歩美のツモは三萬。
(一発でこれ掴ませられるとはね。赤有りルールだったら悲惨ね)
仕方無く現物の一萬切りである。
「ほぉ〜…。ベタオリする時もあるのか」
「流石にこれ切ったらズドンだし」
ノミ手とはいえ流石に和了りたいのか、上家は全ツッパだ。
「おっと…。こっちにもまだいてくれたよ」
「2,200・4,200」
「チッ…」
歩美が4,200点を投げつけるように渡す。何も言わず8,600点分の点棒をしまい込む和弥。
(諦める必要なんてどこにもない)
東2局二本場の配牌とツモは、和弥のそんな気持ちを後押ししてくれたかのようだった。
◇◇◇◇◇
「あの程度じゃ、局面を変えたとは言えないな」
モニターを見ながら龍子が、深い息を吐きだす。
「直撃を受けた訳ではない分、まだ五条歩美が優位に立ってますね」
反撃ムードに水を差すような龍子と由香の会話だが、紗枝だけでなく今日子も反論は出来ない。
文字通りの正論だからだ。
「それにしてもB卓は準決勝とは思えないくらい、他の2人は手も足も出ない状態だね」
「短期決戦で決めるべく、五条の方は全力疾走だ」
またチラリとモニターを見る龍子。
「よほど気に入らないのだろうな。竜ヶ崎の存在が…」
「あの逆境から和弥クンがどうするのか。こりゃあ見物だな」
場面はさらに厳しくなった。
東3局はあっさりと歩美が流し、東4局。ドラは五萬。いよいよ和弥の親。
この親で連荘しないと歩美が一気に流れを持っていくだろう。赤も裏ドラも一発もない以上、役を絡めねばならないためどうしても聴牌速度は遅くなるが、それでも和弥はブレない。
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