第133話:三歩リード
東2局。問題の歩美の親。ドラは七萬。
「お! アイツの配牌! ドラ二丁に西と發が対子じゃん!!」
「上手くすれば萬子の混一色まで持っていけそうですね!」
立川南麻雀部控室が活気づくのも、無理はない。
このルールでハネ満まで持っていければ、勝負はほぼ決する。歩美相手に安手で流し続けて、何かが変わるということはないだろう。
出来るだけプレッシャーをかけ続けなければいけない。
(問題なのは、俺がどう打つか、だ)
仮にこのルールで全国のベスト4に上がってきた相手だ。全員、そこらの雀荘でイキってる学生やおっさんとは訳が違う。そう。ケアするのは歩美だけではない。
(普段通りに打つんだ…。余計なことを考えると、ある筈のチャンスさえ見えなくなる)
一気呵成に攻め続けても、歩美の鋭い読みにはすべていなされてしまうだろう。かといってディフェンス一辺倒の2位狙いでは全員に楽をさせてしまう。
麻雀はいつでも、攻守のバランスというものが重要だ。
和弥の熱意が伝わった訳ではないのだろうが、無駄ヅモはほとんど無く、サクサクと手が進んでいった。
(よし……。これはいける)
一方、立川南の控室も和弥のツモにやんやの声援だ。
「す、凄い! 鳴いてもハネ満クラスだけど、ひょっとしてこれ面前混一色まであるんじゃない!?」
思わず身を乗り出す由香。
「もう捨て牌でバレてんだから、役牌絞られるのはしゃーないか」
今日子の言う通りである。まずまずだ。この状況だ。染め手で役牌を絞られるのは仕方ないだろう。と思いきや───
「リーチ」
8巡目に、今度は親の歩美が先手を取ってリーチである。
「早いわよ!?」
「な、何あれ? 普通のタンピンじゃないよね…?」
楽観ムードが瞬時に消える立川南控室。
歩美の捨て牌は字牌、萬子、索子。捨て牌だけなら一見面子手に見えるが、和弥とは対照的に筒子がないのだ。
しかし9巡目。和弥も聴牌。一盃口も確定し、出和了りでも倍満である。
点棒入れを迷わず開ける和弥。
「リーチ」
一萬を横に曲げた瞬間、立川南の控室の一同は全員固まってしまった。西も發も生牌。上家も下家も出してくれるとは思えない。歩美が掴んでくれるのを待つしかないのだ。
「オリるつもりないなら、まあリーチだよね」
「めくり合いかぁ……。向こう、何とかアタリ牌掴んでくれないかな」
和弥の手牌を見ながら、ハラハラする今日子と由香。
11巡目。和弥はツモった三筒をそのまま切る。
「ロン。7,700」
クスリと笑った歩美が手牌を倒した。
「一歩どころか。三歩リードだな」
まるで他人事のように呟く龍子。
東2局にして、あまりにも大きすぎるアドバンテージ。あとは大きな放銃さえなければ、この2回戦目も歩美が取りそうな勢いである。
(親のリーチにも平気でつっかかる……。その度胸だけは認めてあげるわ。もっとも自信過剰がアダにならないといいわね)
点棒入れに自分のリーチ棒も含めた、計9,700点を仕舞いこんだ歩美はまたも不敵に笑った。
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