第130話:強敵
東1局。親は綾乃。ドラは白。
(そういえば先輩の打ち方って、まともに見た事はなかったな)
モニター越しに、綾乃の手をじっくりと見る和弥。配牌から綾乃の手は非常に良かった。
おかげで捨て牌からタンピン系には見えない。
6巡目。綾乃は早くも聴牌。
(安目を引いちまったか。裏ドラにかけてリーチにいくか?)
しかし。ここで綾乃が選んだのはダマテンだった。
(竜ヶ崎くんと会う前の私なら、ここは即リーだったろうけど…ここはダマ。何故ならこの手は…)
次に綾乃がツモってきたのは、三索である。
(来たわ。この手は三色になりたがってるものね)
「リーチ」
一瞬で綾乃の卓に緊張感が走る。
(手が三色になりたがってる、か……。以前の私なら鼻で笑ってただろうね)
9巡目。
「ツモ」
高目の九索である。裏ドラは───八筒だった。
「6,000オール」
東1局でいきなり綾乃のハードパンチが炸裂だ。
序盤は“見”に徹して情報収集する綾乃にしては、珍しくエンジン全開である。
「こりゃ、先輩の決勝進出は決まったな……」
和弥は思わず声を漏らした。今対局している相手は全員綾乃のデータに入っているのか……?
瞬間記憶能力を持っているのを否定しない綾乃だ。
一通り見れば打ち筋などは頭にあるかも知れない。
和弥がそんな事を考え始めた直後だった。
『完全競技ルール・準決勝に参加する方は受付までお願いします』
呼び出しである。
「じゃあ行ってくる」
控室を出ようとする和弥。
「竜ヶ崎」
呼び止めたのは龍子である。
「はい?」
「頑張れよ?」
龍子から激励とは珍しい。不思議な気分になった和弥は、己自身に笑いそうになった。
「───こんなとこでつまずくほど、ヤワな打ち手じゃありませんよ、俺は」
「竜ヶ崎くん! 頑張ってね!?」
「先輩なら負けませんよ!!」
小百合と紗枝も立ちあがる。
「……大丈夫だよ。あそこに座ったらただ一つ。目指すは“勝つ事”だけだ」
「そう、よね……」
そろそろ赤入りルールの準決勝にも関わらず、和弥を心配する小百合を後目に和弥は会場に進んでいった。
「………」
受付まで進んだ和弥はゲッソリとする。自分を含め準決勝に進んだ8人のメンバーには久我崎高校部長・花澤麗美。そして丸子高校の五条歩美もいたからだ。
「やあ! 久しぶりじゃない!」
馴れ馴れしい麗美だが、和弥にとっては今のところは“叩き潰すべき敵”でしかない。
いや。ここにいる全員、首位、もしくは2位通過してきた者たちだ。全員が強者である。
しかし和弥は直感した。
敵は麗美と、そして五条歩美なのを。
「出来ればキミとは決勝で当たりたいから。別の卓に行ってほしいかな」
「別に。戦うならいつでも一緒だろ」
クジを引く和弥。B卓だった。
「よし! 私はA卓だ!」
クジを引き終えたあと、大喜びする麗美。
「……私はB卓だね」
静かに和弥を見据える少女。五条歩美だった。
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