第129話:本気度
『そっちの方が本気になれるだろっ!!』
結局この日は家まで送ってもらった小百合は、入浴のあと髪を乾かしそのままベッドに横になった。
あれこれと明日の準決勝。そして和弥の事を考える。
(本気になれない、か……)
自分だって、今まで本気じゃなかったことは一度もない。
いや、逆に競技麻雀を打つ上で。小百合を今まで支えてきた原動力と言っていい。
でも自分の“今まで”を否定した和弥の打法に、いや、和弥自身に夢中なのは否定出来ない。
とにかく、彼に認められたい。そう考えると嫌でもテンションが上がる。
「明日よ! 明日勝って決勝進出っ!!」
気持ちが昂り興奮して寝れないが、小百合は無理やり布団を被った。
◇◇◇◇◇
小百合は駅前に立っていた。勿論和弥と待ち合わせの約束をしているからだ。
「おっす。昨日は眠れたか?」
ライムグリーンのNinja400に、片腕にキャップ型ヘルメット。和弥である。
「ええ。おかげ様でぐっすり」
本当は中々寝つけれずに、睡眠を誘発するためアスピリンを飲んだのだが、勿論そんなことは言えない。
「んじゃ行くか」
小百合が乗ったのを確認すると、和弥はアクセルをふかした。
夏休みにお金にならない競技麻雀を打たねばならない。しかも午後から暑くなるようだ。
でも和弥は最後まで打つ事を約束してくれたのだ。
なら自分も、絶対に団体戦と個人の頂点に立とう。
心に固く誓った小百合だった。
◇◇◇◇◇
バイクを降りると、風で冷えた体が一気に熱くなり始める。
気象情報では今日は猛暑日どころか酷暑日らしい。
(ここからだと結構距離があるのね…)
ぐるっと見渡しているうちに、和弥は会場の方向へ歩き始めていた。
「あ、待って竜ヶ崎くん!」
早くも汗ばみながら控室に到着
今日は個人戦ベスト4なので本来なら会場に来なくていい筈の由香、今日子、紗枝も来ている。
「何だよ。家でゆっくりしてりゃ良かったろ」
目も合わせずベストを脱ぐ和弥だが、3人とも怒らず由香に至っては、ぷくーっとワザとらしく頬を膨らませた。
「冷たいなー。せっかく和弥クンの応援に来て上げたってのに」
「どうするんだよ。控室から念力でも送ってくれるのか」
気が付くと和弥は笑っていた。
いつも仏頂面だった和弥が、部員たちに初めて見せたと言っていい笑顔である。
『個人戦・準競技ルールの出場する方は、大会受付まで集合して下さい』
綾乃が出場する、『偶然要素は裏ドラのみの準競技ルール』の選手呼び出しである。
「んじゃ、行ってくるね」
急ぐ様子もなく。綾乃はゆっくりと部室から出ていった。
相変わらずニコニコと微笑んでいるのだが、相変わらず何を考えているのか分からない。
それは和弥だけではなく、小百合も感じている事だった。
しかし立ちあがった龍子は、咳払いをしてから小百合に告げた。
「西浦は真面目に考え過ぎる。もう少し気楽にいくことも覚えるんだ」
(………)
反論しそうになったが、小百合はグッと堪えた。
こんな場面で真面目にならなくてどうするというのか。
龍子なりにリラックスを解してくれたつもりだろうか? 小百合は和弥の隣に座り、モニターを観戦始めた。
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