第128話:研ぎ澄ます神経
案内されてリングサイドに来た小百合。
「カズ坊。カノジョ? が見学しにきたぜ」
ニヤニヤと笑いながら去っていくトレーナー。
「どこ見てんだっ!?」
同時に相手は、頭から和弥に突っ込む。和弥はハッとしたように、両腕で顔面をガードした。
強烈なストレートだ。
(……あんなパンチを…)
驚く小百合だが、和弥はふつふつとこみあげてくる闘争心に身をゆだねながら、和弥はアウトサイドにステップを踏み、そして、身体を半回転させる。
奇襲技のバックスピンキック。後ろ回し蹴りだ。
放った和弥も驚くレベルで、その蹴りは相手のグローブをかすめる軌道で、思い切り左側頭部を撃ち抜いた。
こちらの踵が痺れるほどのクリーンヒット。結果、相手は尻もちをつくようにヨロヨロとダウンし、腰からマットに落ちる。
レフェリーがすかさずカウントの必要もないとゼスチャーをする。
意識を奪うには至らなかったが、今のは完全にダメージを受けた人間の倒れ方だ。
相手選手はガクガクとしながら、カウント8まで立ち上がることができなかった。
「お、おいカズ坊ッ!?」
他の練習生達は唖然とし、トレーナー達は凄まじい形相でリングに駆け上がってくる。
あまりの出来事に小百合も茫然とするばかりだった。一人和弥だけは冷静に、トレーナーの怒声を聞いていた。
(先に仕掛けたのは向こうなのに……)
小百合からすれば和弥だけが批判を受けているこの状況は、受け入れがたいものだった。
「どけろっ!!」
心配する周囲を振りほどき、何とか立ちあがる相手選手。
(なんなのこの人?)
自分から和弥に突っかかってきて、何を怒っているのだろうか。小百合の理解を超えている。
最も和弥は相変わらず麻雀を打っている時のように、冷酷ささえ感じる表情だ。
「構いませんよ。むしろインファイトは望むところです」
和弥も再びファイティングポーズをとる───ふいに相手はダッシュで近づくや、身を擦り合わすほど接近し上半身を一気に沈めた。
相手の渾身のアッパーカット。しかし和弥はまたも冷静にこれをかわす。
今度は至近距離からの飛び膝蹴りだった。
「ぐえっ!!」
相手がうめきながらマットに這いつくばる。今度こそ立ちあがってはこれないだろう。
◇◇◇◇◇
「待たせたな」
シャワーを浴び、髪をセットしてきた和弥。
これからヘルメットを被るのに、この拘りには少し笑ってしまう。
小百合にキャップ型ヘルメットを渡し、Ninja400のアクセルを吹かした。
「ねぇ、竜ヶ崎くん」
「なんだ?」
野太い排気音が鳴る中、和弥は振り向くことなく小百合の問いに答える。
「どうしてヘッドギアをしないの貴方!?」
少しの間を置いて、和弥は口を開いた。
「そっちの方が本気になれるだろっ!?」
小百合に何も言わせないように、和弥はNinja400を発進させたのだった。
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