第12話:高き壁
「ロン。タンヤオ・三色。5,200。終了だな」
「うそ………?」
和弥はゆっくりと手牌を倒した。
「待ちが悪いのでずっとダマにしていたがな。まさかこの終盤で、そんな甘い牌が出てくるとは思わなかったぜ」
これで3位、3位、2位、4位………。今までと違い、一度もトップを取れない。
常に先行されてリーチ。先手を取ったと思っても止められる。
「和弥クンさぁ………クラスメート相手に………」
「ちょっと手加減してやりなよ………」
小百合に負けないくらいボロ負けしてるはずなのに、上家と下家の男性も同情するように小百合を見ている。
かえってそれが屈辱だった。
「だとよ委員長。どうする? 今日はもうやめておくか?」
「あと………一回だけ………」
◇◇◇◇◇
結局小百合は、5回戦目も3位。和弥の5連勝に終わった。
封筒の金は、まだまだ残っている。けど………
「悪ィ、和弥クン。俺今日はここで失礼するわ………」
「俺も………。また今度打ってくれよな」
恐らく、うなだれている小百合を見て、上家と下家の男性が察したのだろう。
2人とも帰り支度を始めた。
「その面見てると、聞きたいことが山ほどありそうだな」
勝ち取ったお金をポケットにしまいながら、「やれやれ」という表情を浮かべる和弥。
「えぇ………」
和弥は店員を呼んで「場代を払うからあと少しこの卓を貸してくれ」と告げた。
ついでに「カフェ・オレ。ノンシュガーで」という声も。
「そちらのお客様は?」と聞かれたけど、小百合は「私は結構です」と断った。何かを飲む気になんて、とてもなれない。
「まず1回戦目の委員長の、オープニングでの親リーだ。あれ最初から二向聴くらいの配牌だったろう?」
「よ、良く分かるわね………。あの時の聴牌形は、こうよ…」
小百合は、1回戦目の東1局での自分の聴牌形を牌を集めて構成した。
「やっぱりな。字牌の次に捨てたのがドラ表の二萬なんだ。ニ・ニ・三萬の形からドラを使いたくて、早々に切ったんだろ。
それだけで軽い手が入ってるのが分かる。俺も捨て牌に小細工するタイプじゃないが、それにしてもあれはもう少し後に捨てても良かった」
和弥の説明に、小百合はあ然とする。
しかし、さらに驚いたのはその後の説明だった───
和弥は自分の手元に適当に13牌を集め始めた。
「委員長さ。一向聴になると自分の体が、少しだけ前かがみになるのは気付いてたか?
それと上家が捨てる前に右肩が先ヅモ気味にピクッと動く。委員長に限った事じゃないが先ヅモ気味に右肩が動くのは、聴牌よりもむしろイーシャンテンで焦ってる奴に多いんだ」
「な、何それ…」
そんな事に気づく訳がない。
「…………なぁ。俺が金払ってキックボクシングやムエタイ習ってンの、護身術の為だけだと思ってたのか?」
「ま、まさか……?」
和弥の口からは、小百合の想像の範囲を超えた言葉が次々に出てくる。
「中学2年までは背が低かったし。勝ち金奪われそうになったってのもある。
小学校に上がりたての頃、お袋が強盗にあってあの世に逝っちまってな。その事もあって『強くなろう』って思った。
でもな。今は動体視力を鍛えるためって目的の方が強い」
………もう小百合は言葉が出ない。
「あと委員長、イーシャンテンだと必要ない牌は確認もせず、ほぼノータイムでツモ切りするだろ。
それに対して必要な牌───入り目付近はツモりながらじっくり確認するよな」
小百合はただただ、和弥の言葉に聞き入っていた。
月・水・金曜日に更新していきます。
「面白い」「続きを読みたい!」と思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします。
していただいたら作者のモチベーションも上がります!