第125話:この時のために
新章スタートです。
「ただいま」
何とも浮かない表情で、控室に戻った和弥。
「やったじゃん和弥クン!!」
和弥を見るなり声をかける由香。紗枝も今日子も声をかけようとしたが、3人とも“異変”に気付いた。
普段からあまり感情を表には出さない和弥だが、いつにも増して面白くも何ともなさそうな表情なのだ。
「………」
なにも言わな和弥に、小百合も心配になる。
分かっているのかいないのか、綾乃は笑みを浮かべたまま首を傾げた。
「どうしたの竜ヶ崎くん?」
和弥は正直に答えた。
「先輩、それに先生……団体戦の決勝、丸子高校は棄権だそうです」
「……ああ。さっき昭三さんから連絡があった」
龍子の事だ。和弥のモチベーションが下がらぬよう、知っていて口にしなかったのだろう。
「ふふ……キミにしては珍しく、ガッカリした様子だな」
「別に。そういうワケでは……」
とは言え実力的には龍子、麗美、恵クラスの実力者だ、五条治は。無論その妹である歩美も。
「そうガッカリするな。歩美の方は個人戦、完全競技ルール出場だそうだ」
「別にガッカリなんてしちゃいませんがね。これで団体戦の決勝は、少なくとも久我崎だけマークしてればいいんですから」
いつもの通りの和弥だが、そんな彼の顔を見て、クスクスと笑うのは綾乃である。
「でも良かったじゃん。個人戦はお金賭けなくても楽しめてるでしょ?」
「……ですね」
小百合だけは、彼になんと声をかければいいのかがわからず、言葉に詰まってしまった。
正直金のかかっていない勝負に、和弥がここまで力を入れてくれているのはありがたい事である。
「以前だがな。陵南渕の発岡恵の御父上がこんな事を言っていた」
突然立ち上がった龍子は、大袈裟なゼスチャーで語りだした。
「『───麻雀なんて負けた方が破滅するから面白いんだ』とな。そして新一さんに挑んだ」
もう龍子の話は聞かなくても分かった。
「んで、オヤジに負けて全てを失った、って訳ですか」
類は友を呼ぶ、まさにこの事なのだろう。
その狂気との紙一重だけが、生前の新一が唯一相容れない部分だったとは秀夫の弁である。
「敗北すれば、今まで積み上げてきたものすべてが一瞬にして無に帰してしまう。しかし勝てば、それに見合うモノを手にすることが出来る。新一さんがホームレスとの1,000点10円の勝負にも応じたのは、そういうのもあるんじゃないかな」
「………とても麻雀部の顧問が言っていい発言じゃないと思いますが」
「ふふ。あの頃の私達にとって、新一さんはそれだけの存在だったという事さ。それに……」
「それに?」
ニコニコと笑いながら和弥に近づく綾乃。
「面白いでしょ? 総当たりのリーグ戦と違い、負けたら終わりのトーナメント大会って」
「確かに。それは言えるな」
和弥は個人戦のベスト4に上がった8名を確認する。
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