第124話:あっけない王手
「………ロン」
高目なので一発ついてハネ満。
(この下駄顔野郎。しかし今のは明らかに、俺の待ちを読みきっての打牌だ……)
対して治は余裕シャクシャクである。
(理事長の話に聞いてた通りだ。素直な打ち方だよ。勿論赤ドラ麻雀はそうした方が勝率が上がる)
今一度和弥の捨て牌を確認しながら、鼻歌混じりに収納口に牌を落とす治。後ろの係員も顔をしかめる。不正を疑われても仕方のない一打だからだ。
しかし立川南の控室でも、今の一打にザワついていた。
「な、何あれ……」
「ど、どう考えてもワザとですよね…」
「うん、完成面子から捨てたよ今…」
龍子もこれまでとは全く異彩を放つこの男に、顔をしかめる。
(明らかに竜ヶ崎の待ち、自分の読みを確認するための一打だな。今のは…)
東2局。競り上がってくる牌を、親になった治は平然ととっていく。
「これまでのデータ通りだ。普通の順子手…萬子と筒子は上で完成している」
「………」
突然語りだす治に、和弥も含めた卓の全員唖然とした
「問題なのはどうして一・九筒なんて牌をリーチ直前まで持ってたかって事だ。最初は一通と三色の両天秤だったの、牌の寄り具合から678の三色に変更したんだろ?」
第一打で南を切る治。
「表情を見たらドラ絡みじゃないのは分かった。それで五・八索って読んだんだが。合ってるか?」
「君! いい加減にしなさい!」
一人でしゃべりまくってる治に、流石に大会係員から注意が入った。
「へいへい。分かりやした」
8巡目。
「さーて。12,000点のハンデつけちまったしな。リーチ」
現物を切る南家。そして和弥のツモである。
「!?」
和弥の打牌に、今度は治は目を疑った。
「あんなの差し込みと変わらんだろ。脇の2人も不愉快だろうし、いくらか返してやるよ」
打・二萬。治の当たり牌である。
「ロ…ロン」
手牌を倒した裏ドラを確認するが、裏は乗っていなかった。
「…7,700」
「はいよ」
治に点棒を渡す和弥。
(そっちこそそんなに難しい読みじゃないだろ。そのタンピン系の捨て牌で最初に出てきた中張牌が赤五索。そっちより萬子や筒子の方が大事ですって宣言したようなもんだ。
四・四・五筒から345の順子が完成。これで四暗刻断念。最後はニ索も枯れたので三暗刻も諦めて両面リーチ、か)
治は即座に、和弥の力量を見誤っていたことに気付く。
その後はお互いに勝負手が入らず。しかし両者とも2回戦とも最下位だけは避け、決勝進出が決定した。
「よう。楽しかったぜ」
控室に戻ろうとした和弥に、巨大な手の平を差し出す治。
「………」
拒否する理由もないと、和弥も握手に応じた。
「でもオメーみたいな奴は、こんな勝負じゃ真剣になれねーな」
「………? 個人戦には出ねーのかあンた?」
「あー、無理無理!」
治は豪快に笑い飛ばす。
「俺は受験寸前に事故に合っちまってよ! リハビリに2年近く費やしてたんだ。だから18で入学したって訳。当然今ハタチの俺にはU-18の参加資格なんて無ぇ訳よ!!」
「………」
相変わらず治は笑うが、中々重い話である。
「んで、決勝はその治療の関係で俺は欠席。5人キッカリしかいない丸子高校は当然棄権って訳だ」
なるほど。こういう事があるから、綾乃もバックアップがほしかったのだろうと和弥は納得した。
「ウチの理事長の言った通りだったな。んじゃな」
「おい」
去ろうとした瞬間だった。
「俺とまた打ちてぇってんなら。あンたんトコのあの理事長の爺さんに聞きな。多分俺がいつも打ってる雀荘は知ってると思うからよ」
背を向けたまま手を上げ、治は去っていた。
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