第123話:受け継ぐバトン
「ただいま」
小百合が控室に戻って来た。
「お帰りさゆりん!」
「凄いです西浦先輩!」
「あの三倍満はびっくりしたわっ!!」
由香や紗枝は勿論、普段は小百合と何かとソリが合わない今日子まで、小百合を笑顔で迎え入れる。
「ありがとう。本当にあの三倍満は自分でもまだ信じられないわ」
大将戦のために立ちあがった和弥を、チラチラと見る小百合。一番褒めてほしい人物は他ならぬ彼なのだ。
「………委員長」
「な、何!?」
一瞬の緊張感───
ひょっとして、和弥から見ればまだ小百合には足りない部分があるのだろうか?
「あとは任せろ」
ゆっくりと、ドアに向かう和弥。
「え、ええ…頑張って竜ヶ崎くん」
小百合の後に全員が立ちあがったが、和弥に何と言っていいのか分からない。
全員の代わりに答えたのは龍子だった。
「私達の言いたい事は分かってるな。竜ヶ崎?」
「俺に負けはねぇよ」
「ふふ……ならいいんだ」
敢えてプレッシャーをかけるような龍子の言い方にも、和弥は臆する事なく控室を出ていく。
◇◇◇◇◇
「よろしくお願いします」
全員が卓に座り、いよいよ決勝を賭けた大将戦。
立川南も丸子も、よほどのミスがない限り決勝進出であろう。しかし上家も下家も、勝負を諦めた訳ではない。
しかし対面に座った丸子高校の大将の男に、他家は圧倒された。
ヘビー級と言っていいのか。凄まじい巨躯も去る事ながら、厳つい顔つきもだ。
後ろの係員ですら、気圧されているのが分かる。
(ふん。見掛け倒しじゃなきゃいいけどな)
「オメー、あの竜ヶ崎新一の息子なんだってな?」
和弥と視線が合うなり、男が話しかける。
「初めて会った人間に、そんな事をペラペラしゃべるつもりはねぇよ」
東1局。和弥は北家。ドラは東。親ならこれがダブ東が爆弾になるパターンもある。
幸いにも和弥に東は来ていない。
(配牌には来ていない。まあ来ても関係ないが)
8巡目。西家が自風牌の西を暗槓。新ドラは七萬になる。
和弥のツモは六索。
(六索と七索がくっついたか…。ここは一通より三色だ)
すかさず和弥は一筒を切る。それを見て微かに笑った男。
(野郎…俺の手牌の何を見て笑いやがった?)
9巡目。三色への切り替えは正解だったようだ。六萬をツモって高目678の三色のチャンスである。
(よし…絶好の聴牌だ。安目でも新ドラが乗る可能性は十分ある)
「張ったんだろ? リーチにはいかねえのか?」
「………」
どうやら男には聴牌を見抜かれているようだ。
「顔に描いてるぜ?」
「……そんなやっすい煽りに乗りたくはねぇが。んじゃ、リクエスト通りにしてやる」
カタリ、と点棒入れを開ける和弥。
「リーチ」
『リーチデス』という女性の信号音が鳴り響き、卓には緊張が走る。
しかし、一人だけニヤけてる男がいた。対面の丸子高校大将・五条治である。
「……どうぞ」
明らかに出来面子から抜いたと思われる打牌。それは和弥のアタリ牌の八索だった。
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