第122話:諦めない少女
小百合にしてみたら、初めて和了った役、二盃口。
確率的にはツモり四暗刻より難しいと言われるこの役を、この大舞台で和了れるとは。
小百合自身が一番驚いていた。
「二盃口、ねぇ……。やられたわ」
12,000点を渡す歩美。これで小百合がトップに浮上。
(これで五条さんは三倍満ツモか、私にハネ満直撃以外トップ目は無くなったわ…)
二本場は下家が600・1,100をツモって、いよいよ南4局。ドラは七索。
6巡目。
バラバラの捨て牌の歩美が切ったのは、その七索だった。
(タンピン・イーペーコー・ドラ3・赤…。鳴くと清一色・タンヤオ・ドラ4・赤で三倍満の手作り…三倍満なら2位には届く…)
上家の太った少年は一瞬迷う。
今までのテンポからして、これは明らかに『長考』だった。
「何してるの? 鳴くんでしょ?」
挑発的な歩美だったが、上家はパタリと牌を倒した。
「そ、そうだな。チー」
7巡目。歩美の手から出てきたのは、今度は二索だった。
「チ、チーッ!」
あからさまな清一色狙いに、小百合も下家も表情が曇る。
一方の歩美は牌を引き込んでは鳴かせている。手がどんどん整っているのは明らかだ。
8巡目。
歩美の捨て牌は、またも二索。
(い…一体何を狙ってるの五条さんは? 捨て牌だけなら全帯公か七対子…。いえ、一応国士もケアしないと…)
「チーッ!」
3副露。明らかに上家は聴牌したはず。
(余計な事を………。でも只の嫌がらせで、こんな妨害してきたとは思えないわ……)
事実少年は聴牌していたが、小百合の悪い予感はズバリ的中した。
9巡目。
「リーチ!」
歩美がリーチをかけてきたのだ。
『リーチです』という女性の電子ボイスが鳴り響き、緊張感がA卓を覆う。
(ウソでしょう…? 逆転の一手なので清一色狙いにも突っ張ったの?)
10巡目。
パタリと牌を置く歩美。牌は發であった。
リーチ・一発・ツモ・チャンタ・三色・發。
裏ドラは二筒だったが、どっちにしろ倍満である。
「4,000・8,000」
逆転はならず。
しかしトップを取って清々しいという気持ちは、小百合にはない。
(彼女も絶対諦めないタイプなのね…)
小百合がトップだった事で、和弥が2戦で最下位さえ回避出来れば、立川南高校の決勝進出は決まる。
席を立った小百合に、歩美が握手を求めて来た。
「去年の個人U-16の優勝者っていうのは、伊達じゃないわね」
何か緊張感が解け、小百合も自然に握手を返していた。
「ありがとう。決勝でも戦えるのを、楽しみにしてるわ」
「そうね。でも次は、こんな窮屈な場所じゃなく、もっとフリーな場所で打ちたいかな」
笑顔を見せた歩美は、静かに去っていった。
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