第121話:ノーガード
副将戦・2回戦目がスタート。卓から競り上がる牌山をスッと斜めに前に出すその動作は、非常に手慣れたものを感じる。当然、崩れ落ちることもない。きっと和弥や綾乃のように、幼少の頃から打っていたクチに違いない。
東1局。小百合はまたも西家でスタート。
「ツモ。1,300オール」
もちろん、牌を倒す動作だって。
東1局はまたも歩美がモノにした。リーチ・平和・ツモの安手だが、手なりな素直な和了りだった。
いきなりの一本場に小百合の上家と下家の表情も強張る。
しかし小百合だけは冷静だった。
(竜ヶ崎くんも言っていたわ。裏が乗らなかっただけ1,300のマイナスで助かったと思うべきよ)
次の局は全員ノーテン。東3局二本場。いよいよ小百合の親である。ドラは五萬。
(手はいいわね…)
6巡目。あっという間に聴牌になる。
(索子周りを引いたら八筒を切ってリーチ。筒子周りを引いたら三索を切ってリーチよ)
しかしそう上手くはいかないのが麻雀である。
7巡目。仮テンの中膨らみ単騎の三索をツモってしまい、一瞬迷った小百合だが静かに牌を置いた。
「二本場で1,200オール」
「は? 何それ。彼氏から教えてもらったのって、そんなせっこい麻雀なの?」
「何とでも言いなさい。それより1,200はどうしたのよ」
今まで優雅さすら感じさせていた小百合の、脅すような口調に上家と下家は驚きの表情を見せる。
しかし歩美だけは、不敵な笑みを浮かべ点棒を渡すのみであった。
(去年の個人戦総合優勝、ね…。幻滅したわ)
心の中で小百合を値踏みする歩美。しかし当然、小百合も見下されているのは分かっていた。
(安く見るなら見なさい。ここでのマストは最下位だけは避ける事なんだから)
東3局三本場。配牌が悪い小百合は完全にオリる。親番にこだわらずに。
徹底的に危険は侵さないスタイル。自分には和弥のように視線や盲牌時の力み、僅かな挙動などは流石に見抜けない。それを分かっているからこその小百合の、完全なベタオリである。
案の定、その後は喰いタンや役牌のみなどを駆使し、歩美が点棒が積み上げていく。
南3局。小百合の親である。ドラは二萬。
「…………」
連対子が4つの、中途半端な配牌だ。
「頑張って下さい西浦先輩!」
「最下位だけは駄目! 最悪3位でもいいんだから!」
控室でも、聞こえる筈のない声援を紗枝と由香がモニター越しに送っていた。
常に勝者だった自分が、一人の少年にプライドを粉々に打ち砕かれた。しかし今はその少年を雀士しても尊敬し、異性としても惚れている。
『敗北をどこまでも拒否し続けた者だけがなれる、それが勝者だ』
その少年、竜ヶ崎和弥が言っていた言葉を思い出す。
無駄ヅモはほぼなく、9巡目に聴牌。
「リーチ!」
ようやく仕上がった手だ。ここは一気に攻め込みたい。
(3位でもいい。けどやっぱりなれるならトップの方が、彼にバトンを渡しやすくなるわ)
小百合も不思議と和了れる気がしていた。
11巡目。
「ツモ」
メンタンピン・ツモ・リャンペーコー・ドラ2。裏ドラを確認すると、表示牌も一萬だった。
「12,000オール」
会場が一気にどよめいた。
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