第120話:完封
歩美の猛攻に防戦一方の小百合。
南4局。ドラは六萬。またも歩美のリーチがかかる。
(これも乗りそうね…)
小百合は溜め息混じりに思うが、こういう時の悪い予感は本当に良く当たるものだ。
3巡後。
「ツモ。2,000・4,000」
歩美の満貫で終了。実力で負けたとは全く思えない。しかし1回戦目は防戦一方の、悔しい2位となった。
「それでは、10分間の休憩です」
軽く拳を握りしめる小百合。
(……何もさせてもらえなかったわ……)
小百合はそのまま立ち上がったが、控室へ戻る気はなかった。会場の壁の近くで、深呼吸をする。
(まだよ…もう1回戦残っている)
「気にするな委員長」
後ろから声をかけられ驚く小百合。声の主は和弥であった。
「……そんな張り詰めた顔すんなよ。一度2位になったんだ。次は最下位じゃなきゃ十分だって」
「でも……」
小百合は表情を強張らせる。
「少しは俺を頼れよ。それとも…俺はそんなに頼りねぇか?」
「そ、そんな事はないわ……!!」
不思議なことに、小百合の緊張はどんどん解けていった。
「じゃあ、大丈夫だな?」
「───えぇ。ありがとう、竜ヶ崎くん」
控室に去っていく和弥の後ろ姿を見つめながら、小百合は思った。
(格好つけすぎよ……)
一度でいいから母・双葉に詳細を聞いてみたい。和弥の父・新一に対してずっとこういう想いを抱き続けていたのか、と。
「それでは副将戦・2回戦目を始めます。選手の方は集合して下さい」
小百合が到着する前に、もう歩美が席に座っていた。
「彼が竜ヶ崎新一さんの息子さん? 格好いいね」
「えぇ、そうよ。私の自慢の彼氏なの」
一瞬ギョッとする歩美。戦前に集めていたデータから、こんな事を言う性格ではないと思っていたからだ。
1回戦目、手も足も出ず苦労していた西浦小百合の姿がない事に、困惑する歩美であった。
「それよりも貴女……どうして彼のお父様の名前を?」
「ウチの理事長の事は聞いてないのかしら? もし知っているなら“裏プロ界の猛禽類”の事も知ってて当然でしょ。理事長が『俺が唯一負け越した奴』って苦笑いしてたわ」
「そう……。でもね」
些か真面目な表情になった歩美に、小百合はキッパリ言い放った。
「私達には新しいラプターがいるわ」
「でしょうね。だから私、今回個人戦は完全競技ルールにしたんだし」
やはりだ───小百合は思った。恐らく丸子高校も、団体戦にはそこまでウェイトを置いていないのだろう。そして真のエースは目の前の少女、五条歩美である、と。
だが、それで腹を立てるなどバカげている。手を抜いてくれているというのなら、猶更そのご厚意に甘えるのみ。
団体戦の優勝は“マスト”だ。
「それでは、2回戦目を始めます!」
係員の声と共に、副将戦2回戦目が始まった。
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