第119話:防戦
(いくらなんでも、これは切れないわ…)
もし七対子だった場合、一発有りルールなのでハネ満が確定する。さらに裏ドラが乗れば倍満にまでなってしまう。
モニター越しに見ていた立川南の麻雀部部員たちも、この光景にはザワついていた。
「あ、あれ先輩たちなら、どうします…?」
不安そうに紗枝が尋ねる。
「あたしは通すね。全国の準決勝に出る人が、いくらなんでもドラ単とは思えない」
キッパリと、由香は答えた。
「あたしも。そもそも2副露なんて、リーチかけたも一緒でしょ」
由香に同調するのは、今日子であった。
「ぶ、部長は…?」
「……私はオリるかな。筒子切るね」
ここで綾乃が初めてオリ派になった。
「りゅ、竜ヶ崎先輩は…?」
恐る恐る和弥を見る紗枝である。
「俺もオリるな。2副露してるとはいえ、突っ張るような手じゃない。てか、あの捨て牌に字牌のドラ打ったら麻雀じゃねぇよ」
小百合の手は西・赤1の2,000点だが、この東さえ通せば押し勝てるだろう。しかし、だ。どうせ七対子なら、と開き直ってリーチをかけてる可能性だって無いとは言えないのだ。
『退くなら徹底的に退け』
和弥の言葉を思い出した小百合は、筒子を捨てる。
───東を止めた小百合の判断は正しかった。
「ツモ」
不幸中の幸いというべきか、裏ドラは乗らなかった。但し親ッパネがである事に変わりはない。
「6,000オール」
早くも勝ち誇ったような表情の歩美に対し、6,000点を支払う。
(それでいい、委員長。それにしても……)
先ほどの綾乃の態度はなんだろうか?
時々何を考えてるか分からないところはあるものの、綾乃が頭が良く察しのいい人間であることは、和弥も入部してから度々思い知らされている。
それが副将戦を前に、小百合に対しあんな動揺させるような態度を取るとは。
和弥は相変わらず何を考えてるか分からない綾乃の横顔を見ていたが、視線が合うのを気まずく思い、すぐに目を逸らす。
(……丸子高校麻雀部では何を教えてるんだ。逆に気になってきたぜ)
素人のようなドラ単騎。昭三の方針が気になって仕方のない和弥である。
東3局。挽回のチャンスともいえる小百合の親番だったが……。
「さっきからひっでぇな……」
和弥も思わず口に出してしまう。
毎回いい配牌が来るとは限らない。とはいえ、3局続けてこれである。
とはいえ、諦めるワケにはいかない。まずは南から切り出し、とにかく手を広げることに専念しようと考えた。
しかし9巡目───またも歩美からリーチがかかる。
こうなればもはや選択肢はひとつ。放銃だけはしないようオリるのみだ。小百合は現物を切り出していった。
(それでいいんだ、委員長。東風戦じゃないんだ。ここで突っ張る必要なんてない)
この局は流局し、歩美の一人聴牌である。
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