第118話:勝負のアヤ
「たっだいまー」
2位で終えて来た由香だが、入った瞬間控室内の物々しさに驚いた。
普段からあまり笑顔を見せない小百合だが、いつも以上にムスッとした表情で黙りこくっている。
入部以来、こんな光景を見たのは初めてだった。
『副将戦に出場する方、受付までお越しください』
副将戦の開始を告げる場内アナウンスが控室にも響く。
「行ってきます」
そのままの表情で、小百合はぶっきらぼうに控室を出ていく。
異様とも思えるその光景に、由香は思わずスマートフォンを手に取ると今日子にメッセージを送った。
『何があったのよ今日子?』
スマートフォンの振動にすぐに由香と気づいた今日子は、すかさずメッセージを返した。
『部長と西浦さん。今日の日程終了したら詳しく教えるわ』
◇◇◇◇◇
「「「「よろしくお願いします」」」」
いよいよ始まった副将戦。東1局、ドラは東。小百合は西家。
(のっけからヒデー配牌だな……)
モニターを見ていた和弥も、思わず顔をしかめた。
先ほどの綾乃との口論に因果関係などないだろうが、まるで麻雀の女神に諫めらていれるかのような配牌である。
起親である丸子高校副将・五条歩美の第一打が西であったが、この手で仕掛けるワケもいくまい。小百合はスルーして、第一ツモへ手を伸ばした。
『常にいい配牌が来てくれるワケじゃない。押すところは押せ、引くところは引け』
和弥が以前紗枝に教えていた言葉が脳裏によみがえる。
逆に言えば、どんなに腐った配牌だろうとツモ次第で化ける。それが麻雀というゲームだ。
(突破口は必ずあるわ。今は我慢の時よ)
小百合は前向きな気持ちで、字牌整理から始めた。
バラバラな手牌を整理し終えるのに8巡かかったが、手牌の進行具合は悪くなかった。
(赤があるだけの二翻だけど、ここまで育ってくれたわね。次の西が出たら勿論即鳴きよ)
そう思った刹那、下家から西が切り出された。小百合はすかさずポンをし。七筒切り。
次巡、上家から三萬が出たのでこれもチーし、五・八索待ち2,000点の聴牌に構えることができた。
打点は低いものの、あの配牌から考えてみればかなり上等な展開といえるだろう。
しかしそう上手くいかないのが麻雀である。安心したのも束の間。歩美が北を切ってリーチをかけてきた。
小百合はさっと緊張し、歩美の捨て牌を睨んだ。序盤から中張牌が惜しげもなく切られ、後半になるにつれ公九牌が捨てられている。
(順子系ではない。七対子か全帯公…)
幸い西が4枚見えてる以上、国士無双ではない。
やはり大本命は七対子だろう。本線は一枚切りの字牌、次点に河に見えていない一・九牌もケアする必要がある。
リーチを受けて小百合のツモは、よりにもよってもっとも切りづらい牌───ドラの東。しかもこれは生牌だ。
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