第114話:あと二つ
「おはよう、竜ヶ崎くん」
「お、おう……おはよう……」
ベッドの中で、和弥は小百合に起こされた。文字通りの“朝チュン”状態である。
(結局避妊具も使わず、委員長の中に何度も……)
小百合とまともに目を合わせられず、思わず顔を背ける和弥。
クラスの男子からは「感情を持ってないのか?」と陰口を叩かれている和弥だが、彼も男である。
小百合のような究極美少女に裸で迫られた瞬間、理性を失うのも当然だ。
その小百合が、いきなりこんな事を切り出した。
「ねぇ、竜ヶ崎くん……」
「な、何だ?」
「私達……もう恋人同士よね?」
「……え?」
思わず小百合の方を振り返る和弥。
「だって昨日、あんなに愛し合ったじゃない……」
聞いてて恥ずかしくなるようなセリフを、真顔で言ってのける小百合。
「いや、それはそうだが」
(オヤジは委員長のお袋さんを、どうやってフッたんだろう………)
そんな和弥の想いは、幸いにも小百合には伝わらなかったようだ。
「ならいいでしょ? 私は貴方ともっと一緒にいたいの!」
「……ああ」
そう答えるしかなかったのである。
◇◇◇◇◇
朝食を済ませた2人はマンションを出て和弥の愛車Ninja400に乗ると、そのまま会場に向かう。
信号待ち、小百合はバイクの後ろから、和弥に話しかけた。
「竜ヶ崎くん……貴方の部屋のギター、埃が被ってたわよ」
「ああ……。あれ、弾かなくなってから随分経つからな」
和弥の住むマンションにはギターが2本ある。
父・新一の影響で洋楽しか聴かない和弥だが、一時は音楽をやってみようと『紅帝楼』で知り合ったバンドマン達と、バンド活動に明け暮れていたのだ。現在の髪型にしていたのも、バンドをしていた時だ。
しかしキックボクシングだけでなくムエタイのジムにも通い始めた事や、家業を継ぐため地元に戻ったバンドのメンバーもあって、バンドも活動停止状態となり和弥は音楽をやめた。そしてギターも埃を被っていたのである。
新一の生前には「お前麻雀と格闘技以外は本当に三日坊主だな」と良くからかわれたものだ。実際は半年は続いたが。
「竜ヶ崎くんは………今でもバンドに戻りたいのかしら?」
「それはねぇな。今は麻雀がある」
その時───信号が青に変わった。
「きゃ!」
スロットルを全開にした瞬間、小百合は和弥の腰にしがみつく。
「おいおい! 危ねぇって」
「あ……ごめんなさい……」
しかし、今の小百合には和弥の声など聞こえていないようであった。
(竜ヶ崎くんの胸板……こんなに固くて逞しかったのね……)
そんな2人の様子をバックミラーで見てしまったバイク便ドライバーがいた。
「あのヤロー、羨ましいぜ……」
◇◇◇◇◇
会場に着いた2人は指定された控室に移動すると、そこにはすでに立川南の麻雀部が到着している。
「おはようございます」
和弥はそう挨拶をするが、部員達には全く笑顔はない。
当然だ。団体戦準決勝。由香も今日子も紗枝も、経験した事のない舞台なのだから。
「おはよう」と返すものの、3人の目は明らかに殺気立っている。
「おはよう竜ヶ崎。昨日はよく眠れたか?」
そんな3人とは対照的に、声をかけて来たのは龍子だ。
まるで和弥と小百合に何があったか、分かっていると言わんばかりの意味深な笑顔である。
「おはようございます先生。ええ、ぐっすり寝れましたよ」
軽く躱す和弥だが、龍子も全く怯まない。
「そうか……ところで一つ聞きたいのだが」
「……何ですか?」
「………いや、いい。あとにしよう」
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